はるか彼方へ プロローグ

多くは望んでいない。願ったのは、誰もが知る女優になること、たったそれだけだった。
それなのに、何で私はこんなところに隠れて怯えていなくちゃいけないのか訳がわからない。
全てはあの男と出会ったことから始まった。でも、あの男は私を売ろうとした。いや、売られたからこそ、こうして逃げ隠れしなくちゃいけなくなった。
路地裏に身を潜めているけど、すぐ側には大きな劇場がある。その舞台に私は一ヶ月後、助演として立つ予定だった。ずっと待ち望んでいた夢の舞台がすぐそこにあるのに、近づくことすらできない。
恐らく、連絡のつかなくなった私を事務所は激怒しているに違いない。それがわかっていても、戻ることはできない。見つかれば、私の女優生命は終わる。

今はただ息を潜め、その場に蹲ることしかできなかった。

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