Chapter.I:思いつきが全ての始まり Act.04

昨日オークションが終わったばかりの商品五点を皐月は綺麗に梱包していく。袋に入れて、英字新聞で軽くパッケージングすると、オークション画面で確認しながら昨日名前と住所を書き終えた紙袋に詰めていく。皐月自身もオークションを利用したことはあり、お礼の言葉を書いたポストカードを一枚つけて封をした。

オークションは、皐月が思っていたよりも高値がついた。トートバッグは二千円前後、グラニーバッグは三千円前後の値がついた。同じようにトートやグラニーを出している中では、この金額でも高値に入る。でも、高値がついたからこそ、何故笹塚にダメ出しされたのか、昨晩からずっと気になっている。

いつも高値がつくナツという人を見ると、大体皐月よりも千円ほど上の金額で落札されている。正直、このナツという人の商品に見劣りしているとは思えない。だとしたら、やっぱりその千円は長年培ってきた信頼みたいなものなんだろうか。そんなことを考えながら梱包を終えると、それを全てもっと大きな紙袋に入れると、皐月は一度シャワーを浴びる。

笹塚にダメだしされてから、六日間、家に閉じこもり百枚以上のデザイン画を仕上げた。途中、兄が来たけれども余り相手にしなかったせいか、その日の夕食と冷蔵庫に作り置きをして帰ったらしい。帰ったらしいというのは、その時には完全に集中して気づいた時には兄がいなくなっていたからだった。

デザイン画は全てバッグばかりで、ナチュラル系に拘らず、和風、シンプル、ファンシー、ありとあらゆる方向にデザインしてみたけど、これなら絶対笹塚に認められる、という一枚は出来上がらなかった。確かに、笹塚が指摘したい方向性が全く見えないのだからそれも仕方ないことかもしれない。でも、デザインで多少なりとも自信のあった皐月としては、笹塚のダメ出しはどうにも納得しがたいものがある。

本棚のへりに置いてあった笹塚の名刺を手に取ると、もう覚えてしまうくらいに見つめた電話番号を再び見つめる。一番てっとり早いのは電話をして聞くのが一番早い。けれども、兄を介さずに笹塚と話すことはためらわれてしまい、結局、名刺にある電話番号を目でなぞることしかできていない。でも、それを差し引いても笹塚の意見が聞いてみたい気がする。

身支度を終えると紙袋と肩掛け鞄を手にして外へ出れば、夏の目に痛いくらいの眩しい日差しが降り注ぐ。濃い影と抜けるような雲一つない青空は夏特有の色合いだと思う。実際、青空は秋の方が濃く綺麗に見えるけど、それでも夏の青空は油絵で表すには難しい独特のグラデーションがあった。暑さに辟易しながらも、駅向こうにある郵便局で紙袋に入れてきた商品を全て発送してしまうと、その日はコンビニでお弁当を買って家に帰った。

そして翌日は恒例の美術館巡りで、正直、皐月としては余り気乗りしていなかった。けれども、もう一週間外に出た記憶がないと佐緒里に零してしまったのが運の尽き、強引に誘われ、結局断れないままいつもの待ち合わせ場所に立つ。日陰に入っていてもアスファルトから立ち上る熱気はいかんともしがたいもので、少し悩んだ末に皐月は待ち合わせ場所が見えるカフェに足を踏み入れた。

そこでアイスカフェオレを頼み、窓際の席に腰を落ち着けると待ち合わせ場所に視線を向ける。待ち合わせの時間には三十分ほど早いけれども、暑さを嫌い今日はかなり早めに家を出た。だから、最初から待つことは予想できていた。

夏の日差しは駅前に植えられた緑を綺麗に反射して、より鮮やかな発色をしている。一時期、ムキになってこの色を出したくて水彩と格闘した時期がある。でも、時間ごとに日差しの強さで色を変える緑を、どうしても捉えることができずに悔しい思いをした。それならカメラに収めれば、と色々な写真を撮ってみたけど、人の目とカメラの目ではやっぱり色合いが若干違っていて、結局記憶を頼りに描くことが最良なのだと気づいた。

そんな自分に兄は融通が利かないと笑ったけど、皐月にとってあの時は、本気で悔しかったのだから兄の言葉にも腹が立った。でも、今ならこうして例え一分、一秒でも色合いを変化させてくから、全ての色が綺麗なのだと知っている。確かにあの頃は、兄が言うように皐月は融通が利かなかったのかもしれない。

それなら若干緩くなった皐月なら、笹塚の言う意見を素直に聞けるかというと、正直自信がない。笹塚は最初から容赦ない、ボッコボコと言っていたくらいだから、恐らく忌避なき意見を述べてくれると思う。それは皐月にとって耐えられるものなのか、自分でもよく分からない。他人から褒められることで伸びた皐月のプライドは、一体、今現在どこまで高くなっているのか自分でも分からない。

笹塚が見せた微妙な表情だけでも既に納得行かないと思っているくらいだから、直接話しを聞けばさぞかし腹が立つに違いない。そうなった時、果たして皐月はどういう態度を取るのか想像がつかない。仮にも兄の友人である笹塚とのもめ事だけは避けたい。

でも、意見は聞いてみたい。色々と考えている内にカフェオレは半分になり、待ち合わせ場所には健吾が立っていた。健吾の姿に気づくと、携帯を取り出して電話を掛ければ、窓の向こうで立っていた健吾はジーンズのポケットから携帯を取り出し耳に当てた。

「健吾」
「皐月か、まさかお前も行けないとか言うんじゃないだろうな」
「ん? 佐緒里は今回パス? とりあえず向かいのカフェにいる」

それだけ言えばこちらを向いた健吾と視線が合い、皐月は軽く手を上げた。すぐに健吾はその足でカフェに入ってくると、コーヒーを片手に皐月の隣に腰掛けた。

「お前なぁ、いるなら前もってメールしとけよ」
「すぐに連絡入れたんだから文句言わない。で、佐緒里はどうしたって?」
「例のおっさんとデートだとさ」
「何も今日じゃなくても……それ飲んだら行こう。西洋美術館だっけ?」
「あぁ、一応その予定」

お互いに視線を合わせることなく交わされる会話はいつものことだ。お互いの視線の先には駅前の風景が広がっていて、何かいいネタになる絵はないかと探している自分たちがいる。それなのに、皐月が今日向く視線の先には女性が持つバッグばかりで、しばらくしてそのことに気づいた。そして、自分が思っていたよりも笹塚の言葉を気にしていることを知り、複雑な思いに駆られる。

別に小物作りは趣味の延長で、それでお金が貰えたらラッキーくらいに考えていた。だから笹塚の言葉は気にすることはないと思う。けれども、ひよっこながらもクリエイターとしては笹塚の意見を無視してはいけない気がする。吸収できるものであれば、貪欲に吸収したい。例え罵詈雑言浴びせられたとしても、やっぱり何がダメだったのかそれが知りたい。

そこまで気持ちが固まっている自分に気づけば行動は早い。

「健吾、ごめん。やっぱり今日はパス」
「何だよ、急に」
「デザイン画でダメ出しされたの。どうしても気になるから理由を聞きたいの」
「皐月のデザインでダメ出し? そりゃあどんな相手だよ」
「多分プロ、なのかなぁ。よく分からない。一応兄貴の友達らしいんだけど……やっぱり理由が聞きたい。今聞かないと後悔しそうな気がする」
「兄貴の友達ってことは男だよな。お前、大丈夫なのか?」

健吾の問い掛けが人見知りについて言っていることは皐月にもすぐに分かった。けれども、とにかくどうしても理由が聞きたい、そう思ったのだからどうしようもない。

「とにかく、聞くだけ聞きたい」
「はぁ……もうお前がそこまで決めてるなら俺が何か言っても聞きやしねーだろ。好きにしろ。でも来週は絶対に付き合って貰うからな」
「分かった……ごめん」

コーヒーを飲み終えた健吾は、隣の席から立ち上がると、帰り際に皐月の頭を軽く小突いてから店を出て行ってしまう。そして皐月はカウンターテーブルの上に置いたままになっていた携帯を手に取ると、もうすっかり覚えてしまった電話番号を押すと耳に当てた。呼び出し音が鳴り、五回ほどコールが鳴った後に電話が繋がる。

「もしもし、どちら様ですか?」

笹塚の落ち着いた声と、背後からの慌ただしいざわめきが聞こえてくる。よく考えれば皐月にとっては夏休みだけど、一般的には平日であり社会人であれば就業時間だということに気づく。

「あ……あの、新見です。新見春樹の妹の皐月です」
「おや、電話してきたんだ。意外だなぁ」

本当にその声は意外と言わんばかりのもので、絶対に連絡は入れてこないだろうと思われていたことはちょっと釈然としない。確かに笹塚の言葉で連絡することをためらっていたのは確かだったけど、逃げると思われていたのであればやっぱり面白いものではない。

「あの、どうしてあのデザイン画がダメだったのか聞きたいです」
「うん、分かってるよ。皐月ちゃんが連絡してくる理由はそれしかないだろうからね。今から青山に出て来られる? 正確に言えば青山一丁目」
「可能です」
「それなら三番出口出たら、一つ目の角を左に曲がって突き当たり角にあるカフェについたら電話して。ごめんね、今ちょっと立て込んでるから、後で連絡ちょうだいね」

それだけ言うと笹塚との電話は一方的に切られてしまう。もし忙しいのであれば日を改めたいところだったけど、それすら口を挟む余裕が無かった。いや、それ以前に電話で笹塚の意見を聞けたらいいと思っていた当初の目論見は早々に崩れ去ってしまう。口調は相変わらず穏やかなものだったけれども、どこか有無を言わさぬ強さがあって圧倒されたのは確かだった。プラス、皐月の気後れが発揮された結果かもしれない。

だからといって、忙しそうな笹塚にもう一度電話を掛けることなどできる筈もなく、皐月はすっかり氷の溶けたカフェオレに手をつけることなくトレーに戻してから店を出た。途端に身体を包み込む熱気と、地表からの熱でうんざりして家に帰りたい気分になる。でも、今さら後戻りできずに駅に向かって歩き出した。

改札を抜けてタイミングよく来た電車に乗り込むと、空いている座席に座りようやく一息ついた。でも、既に駅前のカフェから電車に乗るまでの間に汗だくになっている。額の汗をタオルハンカチで拭うと、皐月は背もたれに身体を預けた。車内の空調はかなり利いているらしく、すぐに汗は引いてくる。心地よさに目を瞑れば、先日言っていた笹塚の言葉が再び蘇る。

ぼっこぼこにされたいとは皐月だって思わない。でも、自分の悪い部分であれば例え将来進む方向性とは違っても、同じデザインという枠であるのならやはり知りたい。いや、知らないといけないと思う。クリエイターという仕事につきたいのであれば、良いことも、悪いことも貪欲に知っていかないと自分の作る物に限られた幅しかできなくなってしまう。そんなことはイヤだった。

新宿で地下鉄に乗り換え、青山一丁目に到着した時には、既に二時を回っていた。笹塚に指定されたカフェは徒歩五分ほどの場所にあった。余りの暑さにぐったりしつつあった中で、ようやく辿り着いたカフェは天国のように思えた。とにかく、最初に出された水をおかわりして、ようやくメニューに目を通してから再びカフェオレを頼む。そしてテーブルの上に置かれたガムシロをきっちり二つ入れると、皐月はようやく落ち着いてグラスに口をつけた。

そこでようやく一息つくと、改めて皐月は店員に断ってから携帯を取り出し笹塚に電話を入れた。今度は二コールで電話に出た笹塚の電話からは先ほどのざわめきは全く聞こえない。

「皐月ちゃん、もうついたの?」
「はい、到着しました」
「待ってて、今降りるから」

そして再び笹塚から電話を切られてしまい、そういう電話の使い方をする人なんだなと皐月は一人納得すると、持っていた携帯をテーブルに置き、代わりにグラスを手に取った。よく考えてみれば昼食すら取っていない自分に気づき、手持ちぶさたということもあってぼんやりとメニューを眺めていれば、笹塚は紙袋を手に数分の内に現れた。

「お待たせ。無理いってごめんね」
「いえ、こちらの方こそ就業中にすみませんでした」

これだけは絶対に言おうと決めていたことを言えてホッとすれば、目が合った笹塚は先日見せたのと寸分変わらない爽やかな笑みを浮かべる。そして店員にコーヒーを頼むと、皐月と同じように二つのガムシロを入れて一口飲んでから、まさにニッコリという笑顔を浮かべてから笹塚は口を開いた。

「デザイン的なことと、縫製的なこと、どちらの意見が欲しい?」
「縫製?」
「うん、落札しちゃったんだよね。これ」

そう言って紙袋から取り出したのは、昨日、オークション落札者の送ったばかりである商品の一つだった。

「こ、これ」
「うん、一つは俺が落札者だったんだ」
「でも、名前が」
「あぁ、うちの社員に頼んで落札して貰ったから」

こういう場合、何と言えばいいのか分からない。落札有難うございます、で合っているんだろうか。そんなことを考えている間にも笹塚の話しは進む。

「それで、デザイン的なことと、縫製的なこと、どっちの意見が欲しいのかな?」
「最初はデザイン的なことを」
「そう……なら遠慮なく言わせて貰うけど、皐月ちゃん、正直、こういう方向性って全然興味ないよね。小物とか鞄とか」
「それは……」
「まぁ、それは春樹からも聞いていたから知ってるけど、興味無い分野であるなら、もっと街中に出て色々と自分の目で確かめるべきでしょ。それに、デザイン画からいっても最悪。デザイン画を見た時点で誰に影響受けているのか丸分かりだった。皐月ちゃん、クリエイターになりたいんだよね。別にその作品でインスパイアを受けるのは悪くない。でも、元の作品が透けて見えるようなら、クリエイターとしては終わってる」

笹塚の言葉は非常に胸に痛い。確かに皐月が影響受けたのはオークションに出ていたナツという人の作品で、それを叩き台にして自作のデザインを考えた。確かにナチュラル系というものがよく分からなかったこともあるけど、笹塚の目にははっきりとそれが見えているらしい。それは、笹塚が事前に言っていた通り、容赦ない言葉でもあった。

「クリエイターであるなら、なりたいのであれば、自分の色を見つけないとこの先はないよ。他人のつぎはぎで生きていく人生もないとは言わないけど、それはずっと後ろ指を差されることになる。こういうことを日常からしているのであれば、皐月ちゃんはクリエイターに向いていない。すぐに将来を考え直した方がいい」

本気で厳しい意見だと思う。でも、その意見よりも何よりも怖いのは、笹塚の絶対零度とも言える言葉とは裏腹に爽やかな笑顔を保ったままというところだ。普通、こういう話しをするのであれば、もう少し真剣な顔とか、そういうものだと思ったけど違うのだろうか。皐月の常識がおかしいのか、内容よりもそのことが気になってマジマジと笹塚を見てしまえば、笹塚は殊更笑みを深めた。

「あれ? 春樹から聞いてないの?」
「……何をでしょう」

恐らく笹塚に向ける視線はかなり奇妙なものになっていたかもしれない。表情から本心が読めない。それはこんなに会話がしづらいものだっただろうか。そんなことを考えていれば、笹塚の携帯が鳴り出し、笹塚は皐月に小さく謝ってから電話に出た。

少し落ち着く意味で皐月は目の前にあるカフェオレを口にしたけど、何だか味がしないのは極度の緊張のせいなのか、もう自分でもよく分からない。そんな中、目の前で笹塚は電話口の相手に本当に申し訳なさそうな声で謝っている。それなのに、その表情は飄々としたもので、全く悪びれた様子はない。

普通、電話口で謝るにしても、多少なりとも申し訳なさそうな顔になるし、皐月なんて思わず電話相手に見えなくても頭を下げてしまうタイプだった。だからこそ、目の前のちぐはぐな現象についていけない。目を瞑って声を聞けば、本当に申し訳なさそうな声で謝っているというのに、目を開けた途端、その言葉の真意が分からなくなる。混乱する皐月をよそに電話を終えた笹塚は、目が合った途端に再び笑みを浮かべる。

「昔ね、声優になった方がいいって言われたことがあってね。もの凄く上手いらしいよ、電話向こうの相手に見せかける演技が」
「じゃあ、今のは本気で謝罪はしてない……」

それはありなのだろうか。いや、笹塚的にはありらしいけど……ありえない。目の前で見たにも関わらずありえないと思う。確かに俳優とか声優とかいう職業につく人たちがいるのだから、ありえないということはないのだろうけど、にわかに信じられない存在に思える。

「してないよ。別に適当に謝罪しておくのも社会人としては大切なことだしねぇ。あぁ、そう、話しは公平じゃないといけないよね。皐月ちゃんがオークションに出した時点で、俺は入札していたんだよ。春樹の妹とは知らずにね」
「……どうして」

何だかもう、色々な意味で話を聞きたくない気がする。笑顔の裏にある感情が笹塚には全く見えない。だから怖い。

「俺の作品のパクりだったから」
「それは……え、まさか、ナツさんって」
「俺のハンドルネーム。ああいう作品って女性が作ったということにしておいた方が受けがいいからね。でも、いくら何でもこの出来は酷いよ」

そこからは製図の方法からミシンの掛け方、そして仕上がり具合、とにかく最初に笹塚が言っていた通りボッコボコにされた。落ち込みはする。でも、所詮井の中の蛙だった、ということは皐月にも理解できた。

「落ち込んでる?」
「それなりに」
「だろうね。基本的に容赦できないタイプだから」

でも、何だか悔しいと思うのは言われるままで引いてしまえば、そこで全てが終わる気がしたからかもしれない。

「あの! また、今度デザイン画を見て貰えませんか?」

それは皐月にとって、もの凄く勇気のいる言葉でもあった。実際、言われた笹塚も驚いた顔で皐月を見ている。けれども、しばらくすると先ほどと変わらぬ笑みを浮かべた。

「俺はね、多分、皐月ちゃんにとって、毒にも薬にもなるタイプだと思う。君の周りにいる人たちみたいに甘くないしね」
「それは、兄のことですか?」
「春樹だけじゃなくて、君は多分まわりに随分甘やかされていると思うよ。だから、俺みたいなタイプに余り近づきすぎると皐月ちゃんの将来を潰す可能性もある」

それは少し会話しただけでも分かる。ここまでボッコボコに言われたら並の神経であれば自信喪失してしまい、クリエイターを目指せるか自答自問するに違いない。実際、皐月自身、全く落ち込んでいないといえば嘘になる。でも、確かに笹塚の言葉を聞いて、もっと自分に何が足りないのかを知りたくなった。多分、今回笹塚に言われたことは本当に基本的なことで、クリエイターになりたいのであれば絶対に忘れてはいけないことだと思う。はぐらかしのない言葉、それは皐月にとっては非常に分かりやすく、そして奮起してくれるものでもあった。

「それでも見て欲しいです」
「そう、それなら来週までにワンピース十着、デザインしておいで。そしたらまた色々と意見は言うよ。でも、次は本気で容赦しないよ。今回は春樹の妹だからこれでも特別甘めだったんだから」

……一体、どんだけサドなんだ、この人。

薄ら寒く思いながらも、言ってしまった手前もう後には引けない。だからこそ皐月が頷けば、笹塚は穏やかな笑顔を浮かべた。ただ、その笑みが薄ら寒く感じたのは恐らく皐月の気のせいではないに違いない。

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