匣から溢れ出る殺意 Act.09

本部へ戻れば、昼前にも関わらず捜査員が数多く、出迎えてくれた捜査員の一人がこれから捜査会議が始まるのだと教えてくれた。そのまま芝浦と松永も捜査会議に加わる。
最初は農薬を使って神田を殺害したと自首してきた渋谷という少年について、自首した理由は少女のいじめを見て見ぬふりをし続けていた償いのため、そして少女が好きだからこそ救いたいというものだった。結局、少年は捜査員に厳重注意を受けて、今は自宅に戻っているとのことだった。
今時の子どもが考えることは、とんでもないと思いつつも苦い笑いが込み上げるのは、ストレートな子ども特有の純粋な気持ちは誰もが通ってきた少し懐かしい気持ちだったからなのだろう。
そして、同じく自首してきた立川という少年から何も聞き出せないまま、本日も捜査員が自宅で事情聴取をしている。しかし、現時点では何も進展がないということだった。
そして芝浦と松永は、少女から事情を聞き、加賀見家に毒薬が存在すること、そして、少女が心理的虐待、及びネグレクトを受けていたらしいという報告を入れる。まだ少女から聞いたものだから、何一つ確証らしきものは取れていない。だが、それを補うように他の捜査員から、近所の人たちが学校を行き来する姿しか見たことが無くて、不審に思っている人が数人いることを上げた。
とにかく毒の販売ルートの特定をした後、家宅捜査にて薬品を押収、そして本当に少女が言うように犬や猫が五十匹近くいるのであれば、動物虐待ということで一度両親を引っ張ることで方向性が決まった。そして、可能性として両親のどちらかが学校へ忍び込み、毒を盛ったのではないかという意見も出たが、限りなく低い可能性ながらそれも視野に入れつつ、令状が取れ次第、数人の人間で加賀見家に向かうことになった。
念のために両親を尾行している捜査員からは、二人はパチンコ屋にいるらしく、どちらかが三十分置きに店を出てきて電話をしている。その電話はここへ少女の居場所を教えろというもので、捜査員たちの口から失笑が漏れる。どこの親が娘の心配をしながらパチンコなどできるのか、他の捜査員同様、芝浦の口にも苦い笑みが浮かぶ。
捜査会議が終了すれば、それぞれ販売ルートの特定に向かう物、そして家宅捜査に向かうために機材を用意する者、鑑識へ連絡を入れる者、それぞれが動き出す中で芝浦は関根に声を掛けられた。
「随分と落ち着いたみたいだな。先生からも連絡があった」
「えぇ、昨日までに比べたら嘘みたいに落ち着いてますよ。彼女が言ったことが全て本当であればいいと思う反面、本当であればそれはそれで辛いものがある。正直、胸糞悪ぃってのが本音だ」
「事件なんてものは、どんなものでも胸糞悪いもんだと思ってたが」
どこかからかい含みの関根の笑みに、芝浦は肩を竦めて見せるしかない。そして、次の瞬間、胸のポケットから関根は折りたたんだ一枚の紙を取り出すと、芝浦に差し出してきた。
「児相に繋ぎをつけた。この担当に連絡を入れろ。そしてシバさんが聞いた範囲のことを全て話せ」
「確証も無いのにいいのか?」
「児相の建前としては、一応虐待の可能性がある、というだけでも調べなければならないから。確証を掴むのは何もこちらでなくてもいい。話しをつけて、令状が取れたら一緒に足を運ぶように伝えればいい。警察も一緒となれば、児相も動きやすいだろ」
管轄が違う、今は動けない、そう言っていたにも関わらず、随分と精力的に関根は動いてくれたと感心する。けれども、それは付き合いの長い芝浦でも不思議に思えた。
「どうしてここまでするんだ? お前らしくねぇ」
「……俺の娘が十歳になる。正直、たまらないものがある。私情だな」
「私情か……私情、結構じゃないか。それで救われる奴がいるんだと思えば、俺は私情上等だな」
視線を合わせて小さく息を吐き出すと、お互いに企み含みの笑みを浮かべ合う。そしてお互いの間にそれ以上の会話なく、関根は自席へ、そして芝浦は電話をするために廊下に出た。関根に渡されたメモを開けば名前と電話番号が記載されていて、携帯を取り出した芝浦は電話を掛けるとメモに書いてある江藤を呼び出して貰う。
関根から聞いたと言えば、関根とは大学の同期でいつも無理難題を押し付けられると愚痴られて苦笑するしかない。けれども、実際、虐待について芝浦が話しを始めると、その口調は真剣みを帯びたものになる。
「それで、加賀見真利亜という少女はいま」
「病院で小児カウンセラーを一人つけてある。黒澤先生と言えば知ってるか?」
「あぁ、分かります。そうですか、黒澤先生がついているのであれば安心できます。それで家宅捜索に入るとのことですが、そこに我々も一緒に足を運んでも宜しいんですか?」
児相には権限が無く、警察のように無理なことはできない。救いたくても救えないことが多い現状を嘆いているのは何も世間だけはではなく、児相の職員も同じように嘆き、後ほど警察から状況を知らされて助けられない命に涙する職員は少なくない。あと一歩が届かない、今回も関根が動かなければこうして連動することはできなかったにちがいない。そして、一緒に現状を見て貰えるのであれば芝浦としては大歓迎だった。
「むしろ、一緒に来て現状を見て欲しい。どこまであの子の言うことが本当かは分からない。けれども、虐待を受けている事実は確かだと黒澤先生のお墨付きだ」
「分かりました。それでいつ踏み込む予定でいますか?」
「今日中に。早ければ三時間もすれば令状が降りる」
「それなら令状が取れた段階でもう一度連絡を下さい。こちらから二人伺います」
お互いに取り決めをして電話を切ると、同僚たちと家宅捜査に入るために荷物の準備をしていた松永が戻ってくる。
「シバさん、飯行きましょう。もう昼飯時です」
促されて署の近くにある定食屋で昼飯を掻き込んでいると、芝浦の携帯が鳴り出す。水で流し込んでから電話に出れば、令状が降りたという連絡で、食べかけだったもののすぐに店を出る。予想よりも随分と早い令状に、関根自ら動いたことが伺えた。すぐに児相の江藤に電話をすれば、やはり予想よりも早かったらしく、それでも加賀見家に向かうということで、芝浦は手帳を開いて加賀見家の住所を伝えた。
そして、芝浦は松永と共に車に乗り込むと、他の捜査員と共に加賀見家へ向かう。家から両親のいるパチンコ屋まで近いこともあり、現着してから尾行している捜査員から声を掛けて貰う手はずになっている。
「そういや、お前の行ってたNPOはどうなった」
「とりあえず、俺が現状確認して連絡入れることになってます。十匹を越えるようなら今日明日、二日に分けて引き取りに来るそうです」
「犬や猫といっても命だからなぁ。死なせずに済むならそうしてやりたい」
確かに芝浦としては結局、動物はペットだという認識しかない。それでも、命あるものであれば助けたいという気持ちくらいはある。
「俺としてはもし真利亜ちゃんが言ってたような現状だったら殴り飛ばしてやりたいですけどね」
「おいおい、刑事が暴力沙汰なんてシャレになんねぇぞ」
「しませんよ……でも、覚悟しておいて下さい。真利亜ちゃんが言う通りだとすれば、多分、地獄絵図です」
低い絞り出すような松永の声に、芝浦は何も言うことができなかった。昨日、松永が言ったパピーミルという現状がどういうものだか、芝浦は知らない。実際、よほど好きな人じゃないとパピーミルという言葉すら知らない人が多いのが現状だと松永は言っていた。それでも、一般人に浸透してきたのは、時折、ニュースやテレビの特集で取り上げられるようになったからだという。元々、ペットに興味が無い芝浦が知らなくても仕方ないと、やけに遠回しな慰めまで貰った。
加賀見家は署から十五分ほどの距離だった。家の前に車を停めると、既に児相の人間は待っていたらしく、芝浦が声を掛ければその内の一人が、電話相手である江藤であることを知る。簡単な挨拶を交わしていれば、丁度、尾行していた捜査員が少女の両親を連れて家に戻って来た。どうやら少女に会わせろと食って掛かっているらしく、そんな二人を芝浦は冷めた視線で見てしまう。そして、二人の前に令状を取り出せば、あからさまに二人の顔が強張ったのが分かる。
他の捜査員と共に芝浦と松永も家の中へと踏み込む。玄関を入り、扉という扉は全て開けていけば、三つ目の扉は開けた瞬間から異様な雰囲気と臭いが鼻につく。獣臭、そして糞尿の臭いにさすがに顔を顰めれば、気にした様子もなく松永は部屋に足を踏み入れるとカーテンを開けた。そして薄暗い部屋の全貌が明らかになる。
部屋の中にこれでもかと積み上げられたケージと共に、幾つもの目があり、そして一斉に吠えたり鳴いたりする状況は異様としか言いようがない。何よりも、その異様さを更に高めたのはそれぞれの犬や猫が、とても普通とは言えない状態だったことだ。ある犬は毛が抜け落ちていたり、ある猫は完全に目が潰れている。そして中には既に死んでいる犬や猫もいた。その中でも凄惨だったのは一つのケージに入った猫の親子で、どちらもガリガリに痩せて命を落としていた。
餌も水もこの暑さの中で与えられていないことは明白だった。芝浦が口を開くよりも先に、江藤が両親に声を掛けた。
「私は児童相談所職員の江藤と申します。加賀見さんの家にいる娘、真利亜さんがこの犬や猫を世話していたというのは本当ですか?」
「それは……あの子が拾ってきた犬や猫ですから当然です」
「ですが、どう見ても十二歳の子どもが面倒を見られる量ではありませんが。それに、見る限り血統書付きの犬や猫が多いようですね」
そう言って江藤が取り出したのは、どこか古びたノートだった。それを開くと、そこにはそれぞれ血統書付きであること、そしてその書類がどこに片付けられているのか書かれていた。そして日付は少女が家を出る一日前で止まっていて、それ以来、ここにいる動物たちは全く世話されていないらしい。
本来であれば、現場の物には勝手に触れるなと言いたい所だが、芝浦はあえて口を挟むことはしなかった。
「普通に拾える犬や猫ではありませんが、その点については?」
「た、たまたまに決まってるでしょ」
言葉を荒げたのは母親の方だった。どこかいびつな笑顔を浮かべながら答えるその顔は、強張っていると表現しても間違えていないに違いない。
「子どもを産ませて売買しているという話しも聞いていますが?」
そこで口を挟んだのは隣にいた松永だった。けれども、視線はやせ細った犬や猫に向けられていて、わざと二人に視線を向けないようにしているように見えた。そうでもしないと、動物が好きだと言っていた松永には耐えられなかったのかもしれない。確かに、芝浦にとって予想以上の酷い状況だった。恐らく動物好きの松永にとってはここは確かに地獄絵図に見えるのかもしれない。怒りを二人に向けない、そのための努力のように芝浦には見えた。
「十二歳の少女がそんなことできるとは思えませんし」
「私たちが世話してたわよ! これでいいんでしょ!」
「本当にあなたたちが世話をしていたのですか?」
「当たり前じゃない。あの子にこれだけの犬や猫を世話できる訳ないでしょ」
言い逃れの為にはどんなに自己矛盾が出ても構わないらしい。それだけ余裕が無いということかもしれないが見苦しいことこの上ない。
「それよりもあの子に会わせなさいよ! どうして親の私たちがあの子に会えないのよ!」
ヒステリーのように叫ぶ母親に、芝浦はわざとらしいほど大きな溜息をつけば母親の鋭い視線が芝浦に向けられる。それを確認した上で芝浦は声を掛けた。
「会ってどうするんですか? 色々余計なことを話したら、また、物置に閉じ込めると脅すんですか?」
「……あれがそんなこと言ったのね!」
「あれ……我が子があれ、随分な言い草ですな」
まるで物のように言う母親の言葉に、芝浦としてはもう呆れるしかない。いや、実際、この親からすれば少女は、これだけの犬や猫を世話する使い勝手のいい召使い程度の扱いだったのかもしれない。脅せば何でも言うことを聞く、それを何年も続けていたのかと思うと、同じ人間として吐き気すらする。
「私の子どもをどう呼ぼうと勝手でしょ!」
芝浦から見ても母親の方は既にかなり余裕なく切羽詰まっていることは伝わってくる。けれども、父親の方は何か言う訳でもなく、ただ押し黙っている。その静けさが芝浦には気持ち悪く感じる。
「まぁ、色々と調べさせて貰いますから。鑑識!」
呼べば部屋に入ってきた鑑識は、一瞬顔を顰めたもののすぐに芝浦の方へと集まってくる。
「すまないが、あの棚を重点的に調べてくれ。全て丁寧に頼む」
指さした先には少女が言っていた棚があり、数人の鑑識はすぐに棚へと向かう。そして、少女の両親はそれを睨み付けるようにして見ている。それを横目で確認しながら一度廊下に出た芝浦は、黒澤の番号を探して電話を掛ける。呼び出し音二回で電話に出た黒澤の声は穏やかなものだった。恐らく、それだけ少女の状態も落ち着いているのかもしれない。
「芝浦だ。悪いが、あの子に聞いて欲しい。あの子が世話していたという証拠が欲しい。何か無いか聞いてくれ」
「分かった」
一旦、受話器を離したのか黒澤の声が遠くなる。芝浦の言葉をストレートに伝えることはなく、遠回しに少女に聞いているらしい。しばらくすると、再び黒澤の声が聞こえてきた。
「庭に犬や猫を埋めた時に花を添えていたらしいわ。金曜日だったからしおれているでしょうけど、まだ残ってる思う。それから棚にある茶色の瓶は真利亜ちゃんしか触ってないそうよ」
「分かった。あの子にもお礼を言っておいてくれ」
それだけ伝えて電話を切ると、再び部屋に戻った両親は相変わらず棚にいる鑑識を忌々しげに睨みつけている。けれども、そんな二人に、わざと神経を逆なでするべくのんびりと声を掛けた。
「娘さんに無理矢理動物の世話をさせていたのは事実ですか?」
「そんなことしてない」
母親は即答したものの、父親はしばらく黙り込んで俯いた。肩を震わせたかと思うと、大きく声を上げて笑いだした。
「世話、させてましたよ。ペットの世話くらい子どもがしても当たり前でしょ」
「あなた!」
母親が止めるのも聞かず、父親は笑いながら言葉を止めることもない。それは異様な光景でもあり、作業をしていた鑑識の手すら止まり笑う父親に視線を向けている。
「生まれた子犬や子猫を殺させた、と?」
「増えすぎたから減らした。それの何が問題ある。それにたかがペット、物と同じだろ。何をムキになる必要がある」
視界の端で動いたのは松永だったが、その松永を腕一本で押さえつけてから、改めて芝浦は笑いが止まらないという様子で笑みを浮かべている父親に視線を合わせる。
「動物虐待、保護責任者遺棄、傷害罪」
「何だ、それは」
「あなたたちの罪状です。あぁ、もしかして娘がいじめられていて、少年を毒で殺しましたか?」
最後は絶対にありえないと思いながらも付け足せば、男は鼻で笑う。
「あれのために俺たちが何で人殺しにならないといけない。冗談じゃない!」
「でも、殺人がないだけで、中々の罪状になると思うがな」
「だからあれにそんなことさせてないって言ってるでしょ!」
全てを遮るように叫ぶ母親に、芝浦は微かに笑みを浮かべると「こちらへ」と両親を廊下を通り庭へと促す。苛立ちの伝わる歩き方で両親がついてきて、その後ろを松永や江藤たちもついてくる。玄関を出て庭へ回ると、庭の一角に大きく空いた穴の少し前で立ち止まる。
「それなら、ここに死骸を埋めているのが二人のどちらかなら、今、この穴の中の状態が分かっている筈だが、どうなっている?」
芝浦が問い詰めれば、二人はそのまま黙り込んでしまう。けれども、更に芝浦は声を上げる。
「どうなってるって言ってるんだ! 答えられるだろ!」
しばし沈黙した後、二人は顔を見合わせた後、父親の方が口を開いた。
「死骸を埋めた後、土を被せてある」
「あんたは?」
「……同じです」
「なら、実際を見てみろ」
庭に不自然なほど大きく開けられた穴を数人で覗き込む。そこには言われた通り、確かに土が被せられていた。そして、その上に既に枯れかけた花が添えられていた。
「あの子はなぁ、あんたらがたかがペット、物だと思ってるものでも、命の大切さを知って花を供えることを忘れたことが無かったんだ。子どもすら物扱いするあんたらには分からねぇだろうがな」
黙り込んだ二人に、他の捜査員が手錠を掛けると、項垂れた二人はそのまま外の車へと連れて行かれる。そして庭に残ったのは芝浦と松永、そして江藤の三人だった。江藤と一緒に来ていた職員は、どうやら事情を聞くためそのまま両親と一緒について行ったらしい。
「……恐らくあの両親は懲役刑になるだろ。子どもはどうなる」
「施設に預けられることになると思います。ケアも必要でしょうし、普通に里親には難しいかと」
「俺ならどうだ……?」
しばし間があったと、江藤は驚いた顔で芝浦を見つめてくる。居心地の悪さは感じたものの、江藤から視線を逸らすことはしない。
「芝浦さんが、里親になるということですか?」
「あぁ」
「確かにあなたであれば、多少時間は掛かるものの、認められるとは思います。ですが、親になるというのはそう簡単なものでもありません。同情や哀れみ程度であればやめておいた方がいいと思います。もう少し、きちんと考えてそれでも考えが変わらないのであれば、もう一度連絡を下さい。私もこれで失礼します」
一礼すると江藤も庭から姿を消し、荒れ果てた庭に芝浦と松永の二人だけになる。
「シバさん……責任感じる必要はないと思います。それはあの子だって分かってるだろうし」
「いや、責任とかそういう問題じゃなくて、面倒を見てやりたくなったんだ。まぁ、上さんの意見もきちんと聞かないとならんがなぁ」
「そうですよ! 一人で勝手に決められたら絶対怒りますよ!」
「だがな……大丈夫な気がするんだ」
「シバさん……」
それ以上松永は何も言うことなく、芝浦も黙り込む。そして改めて深く掘られた穴の傍らに屈み込むと手を合わせた。どれだけの数の動物がここに眠っているのか分からない。そして、どれだけあの少女がそうしたことを繰り返してきたのか分からない。だが、今はただ手を合わせて許しを願いたい気分だった。
それから、松永と二人、二階へ上がり部屋を確認していく。一部屋は物置として使われていたらしく、目につくものは何も無かった。そしてもう一つの部屋を開ければ、六畳ほどの部屋にはベッドと机とタンス、そして片隅にランドセルが床へポツリと置かれていた。ベッドの上には服が広げられていて、少女がどれだけ慌てて部屋を後にしたのか、その惨状からも読み取ることができた。
ただ、小学生だというのに、服と教科書以外の物はその部屋に存在せず、ランドセルが無ければこの部屋が小学生の部屋とは到底思えないほど質素な部屋だった。
窓から入る夕日の中、芝浦は焦燥とした気持ちを抱えたまま、松永とぼんやりその質素な部屋を眺めていた。

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