匣から溢れ出る殺意 Act.03

いつものように学校へ行けば、やっぱり予想していた通り、神田くんが声を掛けてくることはなかった。そして、クラスメイトの視線は私が知っているものと違っていて、その視線の意味を理解することができない。
四限の授業を終えると、明日が運動会ということもあり、土曜日にも関わらず今日は給食があった。当番制で回ってくる配膳をしていると、神田くんが目の前に立つ。そして私のポケットには小瓶が潜む。
それは夢の状況によく似ていた。けれども、私は小瓶を取り出すことなく、器にカレーを入れる。声をかけられなくなったことに落胆はある。けれども、殺したいと思うほどのことではない。
お互いに無言のまま器を遣り取りすると、配膳を終えて椅子に座る。いつものように先生の合図でいただきますの挨拶をすると、用意されていたうどんをカレーの中に入れる。
何故か変に胸騒ぎがして、神田くんから目を離せない。夢のせいだと分かっていても、そういう願望があった自分が恐ろしかった。だから、神田くんがうどんを入れるよりも先に、器に口をつけた瞬間、凍り付いた。
入れてない、大丈夫。私はそんなことはしていない。そう思うのに、酷く心臓がドキドキいっていて収まりがつかない。
私が見ている目の前で、不意に神田くんが胸を押さえた。その顔は見たこともないような必死な形相で、一瞬にして周りの気温が下がった気がする。
そして、派手な音を立てて私の視界から神田くんは消えてしまい、クラス中が大騒ぎになる。けれども、そんな中で一人、私は席を立つこともできない。持っていた箸が手から零れ落ちたことにも気づかす、ただ、その騒ぎを凝視することしかできない。
神田くんはすぐに救急車で運ばれ、それ以上、給食の時間が続くことなく下校させられた。その帰り道、私は呆然とした気持ちで、通い慣れた道を歩く。
願望はあった。薬も持っている。でも、誰かを殺したいと思ったことはない一度だってない。色々な気持ちがぐちゃぐちゃになって、足下がおぼつかない状態で家に帰った。
予想していた通り、両親は家にいなかった。私は自室に戻るとランドセルを床に落とすと、そのままベッド突っ伏す。
私はやってない。毒は確かに持っていたけどやってない。そう思うのに、夢の内容が現実と重なる。小瓶を器に傾ける。そんなことを想像した時、身体中に寒気が襲った。
不意に家の電話が鳴りだし、慌てて飛び起きる。自室を飛び出し、廊下にある電話の受話器を取った。それは学校からの連絡網で、明日の運動会が中止になったという連絡だった。
私の前にいるクラスメイトのお母さんは、うちに親がいないことも知っている。だから、いつものようにそのお母さんが次の人へ回してくれることを聞き電話を切った。
そこから一歩も動けないまま、ポケットに入った小瓶を取り出す。確かにそこに中身は入っている。けれども、元々、この分量だったのかよく覚えていない。
今、神田くんがどういう状況なのかは分からない。ただ、神田くんが死ななければいい。漠然とそう思う。
犬や猫が死んでもあれだけ悲しいのなら、人が死んだらもっと辛いと思う。少なくとも、普通の家族であれば絶対に悲しむと思う。
なら私が死んだら誰が悲しむのだろう……。どこからともなく湧いた疑問に答えは無い。答えがないというよりも、誰にも必要とされていない気がした。だからといって自分から死ぬこともできない。
とにかく、今日は家を出るつもりだからのんびりなんてしていられない。クローゼットの中から修学旅行の時に使った大きな鞄を急いで取り出す。幾つかの着替えと、冬用のコート、そして本棚に隠してあったお金をビニール袋に入れて鞄に詰め込む。
パパやママが帰ってくる前に家を出ないと、また仕事をしないといけない。どうしてもこれ以上仕事はしたくなかった。詰められるものだけ全て詰めると、玄関に向かう。とにかく、この家から早く脱出したかった。
玄関で靴を履いていると、扉の向こう側から話し声が聞こえてくる。それはパパとママの声で、思っていたよりも早い帰りに足下が冷えてくる。それでも必死に辺りを見回すと、納戸として使っている一メートルほどの扉が目につく。
慌てて扉を開けると、鞄と共にその扉の中へと入り込んだ。扉を閉める音と、玄関の鍵が開く音は同時だったと思う。息を殺して納戸の中にいれば、少しすると玄関の扉が開く音がした。
「あーあ、今日は大負け」
「まぁ、そういう日もあるだろ」
会話をしながらどうやら二人はリビングに落ち着いたらしい。ただ息を潜めて見つからないことを祈りながら、物音を立てないためにぺたりと座り込み、膝を抱える。
「それにしても明日、あれの運動会なのよ。お弁当作ったり、面倒ったらないわ」
「まぁ、外面は大切だからな。せいぜい、周りにいいお母さんを演じておけよ」
「分かってるわよ。もしかしたら、そこから金づるになる可能性だってあるんだし。さてと、お金になる子がどれだけいるのか確認しておかないと」
「自分の子どもはあれ扱いで、金になる物に子かよ。ひでー母親」
「別にあれはあれでしょ。そういえば学校でいじめられたらしいわよ。馬鹿じゃない」
「あの陰気な面みてたら、さぞかしいじめたくなるだろ。自業自得ってもんだ」
自分のことを言われているのが分かる。そして、パパとママにとって私は、犬や猫と同じように物にしか見えないのかもしれない。そう思った途端に涙が出てきた。けれども、鼻をすする訳にもいかず、ただ黙って膝を抱える。
涙の筋が幾つもできたけど、ただ、私という存在が孤独なことは分かった。
けど、どうして、それなら私を生んだりしたんだろう。期待が無くなれば、両親が何を考えて子どもを作ったのかよく分からない。必要とされていないなら、最初から生まれてこなければ良かった。
そしたら、こうして怯えることも、悲しくて泣くことも、そして眠る前にしまった匣から溢れ出しそうな殺したいという願望も、全て無かった筈なのに。
ずっと、パパとママに気に入られるように、できることは何でもした。二人が怖かったこともあるけど、でも、その裏には絶対に二人からは必要とされていると思い込んでいた。
そんなことを考えながら、涙を流していれば玄関のチャイムが鳴る。二人の間に沈黙が落ち、足音からママが玄関に向かったことが分かる。ママの足音が目の前を通り過ぎる時には、心臓が口から出そうなほどドキドキする。
すぐに扉が開く音がして、耳慣れない男の人の声が聞こえてきた。
「警視庁捜査一課のの芝浦と申します」
「同じく松永と申します」
「お忙しいところ申し訳ありませんが、娘さんはご在宅でしょうか」
「一体、娘に何の用でしょう」
「娘さんのいる教室で、本日、神田という少年が殺されました」
「……殺された?」
「同じクラスだった子ども、全員に色々と聞き込みをしているところで、娘さんからも話しを伺いたいのですが」
そこから少しだけ会話が途切れる。どうにか耳に会話が入ってきていたけど、完全に思考は真っ白になっていた。
警察の人は殺されたと言っていた。殺されたということは、神田くんはもう亡くなったということなんだろう。そして誰かが神田くんを殺したということだった。
背筋がヒヤリとした。私はやっていない。そう言いたいけど、言い切れるだけの自信がない。夢を見た。もしかしたら、心のずっと奥深くで、私は神田くんを殺したいと思っていたのかもしれない。
そう考えたら、もの凄く怖くなった。空中の震えも止まらない。だから、膝を抱える腕にギュッと力を入れる。
その後からは、どこか遠くで会話している声が聞こえてくるような気がした。
「あの、娘はまだ家に戻っていないようで」
「それは学校からですか?」
「えぇ、多分。実は私も夫も外出していたので、娘が帰っているか確認しておりません。しばらくお待ち頂けますか」
そこから再び声は途切れると、慌てたようにママがパタパタと階段を上る音が聞こえる。慌てていたこともあって、洋服を入れたりした時に色々と出したままだった気がする。ランドセルも放りっぱなしだったから、帰ってきていることはママにも分かる。
しばらくすると再び慌てた様子のママが階段から下りてくる。
「お待たせして申し訳ありません。うちの子、どこかに出掛けているみたいです。ランドセルはあったので、恐らく帰って来てるとは思います」
「それなら日を改めて、また伺わせて貰います」
少しして玄関の閉まる音がしたかと思うと、先とはママの歩く音が違う。その歩き方だけでママが怒っているのが分かる。
「どうした?」
「あれがいないの」
それだけ言うと足音が遠ざかっていき、遠くで扉の開く音がする。それに続いてリビングから出てきたパパの足音も遠ざかっていく。それから少しすると、再びリビングに二つの足音が戻ってくる。
「そういえば、あれが学校で階段から落ちた時、神田さんって人から電話が掛かってきたわ。まさか、あの子……」
「どういうことなんだ」
「神田くんって子が教室で殺されたらしいの。クラスの子、全員に聞いて回ってるって言ってたけど」
「あれが殺したってのか? くそっ、またそんな面倒なこと……どうせならあれが死ねば良かったのに」
その言葉はまるで刃物で刺されるくらい痛いものだった。いじめていた神田くんですら、死ねなんて言葉は使わなかった。それなのに、実の親がそれを言う。そのことが酷くショックだった。
「本当よね。まったく、本当に使えないわ。でも、もしそうだとしたら、まずいわ。どこかでのたれ死んでくれているならいいけど、もしそうじゃないなら……私たちもまずいわ」
「あぁ、あれか……確かにまずいな」
もう会話は耳に届いているけど、その全てが素通りしていく。ただ、嗚咽を堪えるために身体中に力を入れて、漏らすことをしない。ただ、小さくなって涙を流すことしかできない。
今までどんなことでもやってきた。仕事だってやってきたのに、話しを聞いているとやりたくないことを押し付けられていただけだということがイヤでも分かる。
毎日、心の中に押し込めてきた感情が、溢れ出してくる。それは悲しさや、悔しさ、諦めだったり、でも、一番奥底に沈んでいる醜い感情は殺したいと思う感情だった。
犬や猫、そして私を物のように扱ってきたパパとママを、包丁でもあれば今すぐ殺したいと思った。もう、私の世界に二人はいらない人間だ。今までされてきたことを考えると、溢れ出すドロドロとした感情が飛び出しそうで唇を噛む。
人を殺すなんて最低だと思うし、絶対にやりたくないと思っていた。でも、心の底から死んで欲しいと思った。燃え上がるような感情があるのに、それと一緒に冷静な自分もいる。
確かに殺したいけど、今、ここを出て行けば再び物置に閉じ込められる。そして、今度こそ二度と出てこられないに違いない。だから、今は息を潜めて時間が経つのを待つ。
時計がないから時間は分からない。ただ、膝を抱えてジッと待っていると、二人が私を捜す気配は全くない。テレビを見て、時折会話を交わしながら時間だけが流れていく。
噛んでいた唇からは血の味がしたけど、口を開くことはしない。口を開けば、それだけで大声で叫びそうな気がした。
「そろそろ夕飯食べに行きましょう」
「あれはどうする?」
「別にどうでもいいわよ。下手なことを言うなら、それこそ……」
「あぁ、そうだな」
それがどういう意味だったのか分からない。ただ、ヒヤリとした空気を感じた。小さく身震いをすると、膝を抱える腕にさらに力を込める。
そこから二人の間には会話はなく、足音がしてしばらくすると玄関の扉が開く音がする。そして最後に鍵の閉まる音がして、静寂しかなくなる。
それでも、しばらくその場で動くことはできない。納戸は空調が利いている訳じゃなくて、かなり暑い。それなのに、指先だけが酷く冷たい。
殺したい。ただその気持ちだけが心の中で渦巻く。でも、それをしたら、人間としての何かを失う気がする。そして、それと同時に犬や猫の命を物と同等に扱う、あの人たちと同じになる。
分かっているのに、衝動が抑えられない。そして、このままここにいたら、衝動は抑えきれずにそのまま爆発する。
だからこそ、固く膝を抱えていた腕を緩めると、ようやく小さく息を吐いた。それから床に手をつくと立ち上がる。そして荷物を掴んで薄く扉を開けて、そこに人がいないことを確認する。
二人が外に出て行ったのは分かってる。でも、音を立てないように廊下へ出ると、玄関の鍵を開けた。鍵の無機質な音が響いて、思わず目を瞑る。けれども、何の反応もないことに恐る恐る目を開けると、ゆっくりと薄く玄関の扉を開けた。
外には人影もなく、玄関の扉から出ると通りを覗く。左右を見て、誰もいないことを確認すると、荷物を担ぎ直してから走り出した。
恐らく、あの人たちは近くのファミレスかラーメン屋にでも行ったに違いない。だとしたら向かうのは駅だ。旅行鞄とは別に首から掛けている小さな鞄から財布を取り出すと、券売機で買える一番高い切符を買うと自動改札を抜ける。
今はとにかく、家の傍から、あの人たちから離れたかった。どこでもいいから、とにかく電車に乗り込むと終点まで向かう。そして乗り換えると、再び終点へと向かう。そうして何回か乗り換えていくと、終電ということで最後の駅に到着した。
駅の時計を見れば〇時を回るところだった。改札で精算した時、駅員さんが変な顔をしていたけど声を掛けてくることはなかった。
見たことない街は、駅から真っ直ぐに商店街が広がっている。けれども、既に夜中ということもあり、ただ静かな人通りの少ない道になっている。時折、車も通るけどもの凄い早さで抜私を追い越していく。
商店街を抜けて、大通りに到着すると左右に道が延びている。何気なく左に向かえば、しばらく行くとコンビニがあった。何となくコンビニに入り何も考えずに買い物を済ませると、コンビニの袋を持ったままひたすら歩く。
しばらく歩くと、さらに大きな道と交差して、看板を見れば海水浴場という表示がある。その表示にひかれて進路を左に変えた。踏切を渡り、しばらく歩いていると潮の香りがする。
そのまままっすぐに進めば、徐々に波の音が聞こえてきた。思わず走って近づくと、ガードレールの向こう側には、砂浜と海があった。初めて見る海は写真で見るように青くはなかった。
しばらくの間、月明かりで見える水平線を見つめていたけど、少し歩くと砂浜に降りるための階段があることに気づく。少し悩んでから、私はその階段を下りることにした。
階段を下りると、初めての砂浜に感動しながらしばらく歩いていた。砂場とは少し違う感触を楽しみにながら、ゆっくり歩く。しばらく歩くとベンチが置いてあり、そこに座り込むとコンビニで買った袋から全ての物を並べていく。
菓子パンが二つ、ポテトチップ、りんごジュース、そしてどういう訳かカッターが入っていた。何となく欲しいものを籠に入れた気はするけど、カッターを買った記憶はない。
このカッターは一体何の意味があるのか考えてみる。自分が死ぬためのものなのか、それとも殺そうとしたものだったのか……。
幾ら思い出そうとしても、これを手にした時の記憶がよみがえることはない。もう、殺したいという願望が私の中にあるのはもうごまかせない。もし、目の前にあの人たちがいたら、迷うことなくこのカッターで刺すに違いない。
けれども、そんなことは、やっぱり間違えていると思う。命を人の気持ちだけで絶っていいとは思えない。でも、あの人たちが生きている限り、私は普通の生活ができない気がする。
それでも、たとえあの人たちだとしても、命を奪うようなことはしたくない。もうあそこには戻りたくないし、戻るつもりもない。
会わなければ、いつかこの気持ちは匣の中から消えるのか、今は分からない。でも、誰かに止めて欲しい、そういう気持ちもある。
不意に眩しくなり、目を細めて光りの元を見る。そこには大人が二人立っていて、私に懐中電灯を向けている。眩しさでそのシルエットは分かるけど、どういう人たちなのか分からない。
もしかして、もうあの人たちが追いかけてきたのだろうか。そう思ったら、自然とカッターを持った手に力が入る。そして、それに気づいて、慌ててカッターを投げ捨てた。
いけない、それは絶対にしたくない。そう思うのに、あの人たちだと思うと、騙された、殺したい、思い知れ、そんな気持ちが渦巻いて気持ち悪くなる。
懐中電灯を向けたまま、大人二人は近づいてくると砂浜へと降りてきた。月明かりに見えるその姿はあの人たちではなく、警察の制服を着た大人だった。そのことにホッとする。
「こんな真夜中に子どもが出歩く時間じゃないぞ」
「どうした?」
二人の警察官が声を掛けてきて、それに対して、どこか切羽詰まった気持ちで見上げた。
「あの、逮捕して下さい」
「なした?」
「私があの人たちを殺す前に、逮捕して下さい」
小さな声で通じたか分からない。けれども、ぼろぼろと涙が出てきて止まらなくなる。警察の人ならどうにかしてくれるかもしれない。無意識にカッターまで買ってしまう自分を止めて欲しい、そんな気持ちで訴えた。
それからは、泣きすぎてよく分からない。少し落ち着いた時には、警察の建物の中にいて、目の前には湯気の立つミルクが置かれていた。
「まだその格好だとここら辺りは寒い。それでも飲みなさい」
少しイントネーションの違う言葉は、私が今まで聞いたことのない言葉だった。優しい顔をしたおじさん警察官に勧められて、おずおずと手を伸ばす。そしてそのカップを持った時、ようやく自分の手が冷えていたことに気づく。
口をつけると少し甘みがあって、その優しい味に小さく吐息を零した。
「名前を教えてくれるかな」
「……家に連絡しますか?」
問い掛けた私の声は少し震えていた。それが寒さからなのか、恐怖からなのか、自分でもよく分からない。
「話しを聞いてみないと分からない」
「家に連絡しないなら言います。私あの人たちに会いたくないんです。もし今度会ったら……殺しちゃうかもしれない。でも、何も持ってないから私が殺されるのかも」
「……分かった……それなら連絡はしない。名前を教えてくれる?」
本当にその言葉を信じていいのか分からない。けれども、目の前に座る警察のおじさんも、その横に立つおじさんも怒っている様子はない。ただ、その目はどこか同情混じりのもので、そこに恐怖は感じない。
「真利亜……加賀見真利亜」
「どこから来たの?」
「東京」
「住所、教えてくれる?」
それに対しては答えることができなかった。住所を教えたら、すぐに親に連絡されるかもしれない。そう思うと口を開くことはできなかった。
「そげんしたら、それ飲んで、今日はもう遅いからここで泊まりなさい」
「牢屋に入るの?」
「どうして?」
「だって、私、あの人たちを……両親を殺したいと思ってる。捕まえてくれたら、殺さなくて済むから」
それに対して、おじさん二人は顔を見合わせると、困った顔をしている。
「殺したいほど何かされたのか?」
その問い掛けで、今までのことが一瞬にして思い出される。仕事のこと、出てくるまえに聞いた両親の会話、死んでしまった神田くん。そのどれもが衝撃的で、渦巻く思いはどう言葉にすればいいのか分からない。
「沢山、犬と猫を殺したから……」
「ご両親が?」
「私が……」
それからは色々と聞かれたけど、泣いてしまって答えることができなかった。もう昨日で涙はなくなったと思ったのに、また今日になれば止まらないほど泣けることに驚いた。
ただ、今は感情の収まりがつかなくて、ただ泣くことしかできなかった。

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