大学を出て親の会社に入社することになったのは半強制的でもあった。けれども、これといってやりたいことも無かったので兄同様親の会社に入ったものの、跡継ぎ候補になるつもりは全く無く、兄とは違い下っ端から始めた。普通に新入社員として入社したにも関わらず、周りはやはり社長の息子という見えない壁を作ってしまい、人付き合いというものは早々に諦めた。
入社して八年、実力で課長という地位になった時、彼女は入社して自分の部下になった。第一印象は、派手すぎて営業には向かないんではないかと思った。けれども、入社一年目の人間が受け持つ机拭きや、毎日上がってくる佐々木からの報告書を読めば、見た目を裏切る真面目さと努力をするタイプだというのはすぐに分かった。実際、同期の中でも彼女の成績は見る見る内に郡を抜いて上位へと食い込んでいるのが結果としても見えていた。
自分も彼女も営業五課に入って四ヶ月と少し経った頃、休憩所に立ち寄ろうとしたところで佐々木と彼女の声が聞こえてきた。
「お前、それ俺に言って貰って嬉しい訳?」
「いいんです! 言って貰えるなら誰でもいいんですから」
「つーか、そういうのは同期にでも頼めばいいだろ」
「駄目です。同期はみんなライバルですから」
負けず嫌いとも言えるその言葉に笑ってしまいそうになったけれども、辛うじて堪えた。しばらくして聞こえてきた大きな溜息は恐らく佐々木のものだったに違いない。
「俺はそういうキャラじゃないんだがな……言ったからには成績上げろよ」
「勿論です」
「…………頑張れ」
「はい、絶対に頑張ります。よし、気力充填、明日からまた頑張ります」
意気込んだ彼女のその言葉に、初めていいなと思った。そして、少しだけ佐々木に嫉妬している自分に気付いて苦笑した。それから、ずっと彼が現れるまで彼女を見ていた。見ているだけで負けていられないという気分にさせられたし、何よりも、彼女の仕事に対する真面目さと負けず嫌いに惚れてしまったから――――。
* * *
研修も終わり、部署に配属されて上司となった女性はかなり派手な人だった。派手な女性というのは学生時代散々な目に合ったので、これ以上は勘弁という気分でもあったけど、まさか仕事でそれを言う訳にもいかない。
けれども、意外にも意外、外見の派手さはあれども、内面はかなり真面目な人だったらしく、面倒見も良かった。正直言って、軽いちょっかいを掛けても落ちない女は初めてで、段々と面白くなってきた自分もいた。
言動はハキハキしているにも関わらず、男に対しては酷く慣れていなくて、仕事の合間にからかうのが楽しくて仕方なかった。そして、自分からモーションを掛けた初めての女でもあった――――。