恋がしたい、恋がしたい、恋がしたい。
胸キュンとか、キスとか、エッチとか。
もう高校生にもなるんだから恋がしたい。
「言うだけなら誰でも言えるっての。バーカ」
どうやら妄想を口にしていたらしく、慌てて読んでいた漫画から顔を上げた。
「うっさい、黙れ」
「だったらお前が黙ってろ。なーにが恋がしたいだ」
くーっ、マジでムカつく。
でも、これ以上言ってもこいつに口で敵う筈もない。
分かっているだけに口を閉じれば、奴がこっちを向いた。
その顔は呆れたもので、わざとらしく大きな溜息つきときた。
「お前の場合、恋愛に理想がありすぎなんだよ」
「そんなことないって。ただ、好きな人が出来て、ドキドキしたり、ワクワクしたりしたいだけだし」
そう言ったら奴は更に顔を渋らせた。
「いいことばっかじゃねーぞ、恋なんて」
ということは、こいつは恋をしたことがある訳だ。
ただただ純粋に羨ましい。
思わず手にしていた漫画を置いてベッドに寝転がる奴ににじり寄る。
「ドキドキする?」
「何が」
「恋」
途端に奴は顔を背けると、再び漫画を読み出した。
「まぁ、するな」
「毎日が楽しくない?」
「両思いになったら楽しいんじゃねーの」
どこか投げやりな答えにムッとしながらも、更にベッドに手を掛けた。
ベッドが私の重みでキシリとなる。
「ねぇ、今、好きな人いる?」
その答えはすぐに返ってこなかった。
答える気が無いのか、漫画に夢中になってるのか、答えを聞くのを諦めた頃、奴の声が耳に届く。
「いるよ」
「え? 誰? あたしの知ってる人?」
「教えねー」
「ケチ」
漫画で隠れた奴の顔に向かって思い切り舌を出してやる。
くされ縁とはいえ、本当にこういう所は可愛くない。
1才とはいえ年下のくせに生意気だ。
「なぁ」
ベッドから離れようとしたところで声を掛けられ振り返れば、奴の顔はこちらを向いている。
「何よ」
「恋がしたいの? それともドキドキしたいの?」
いつもよりも真剣なその顔に少しだけドキッとする。
「どっちも」
「そっか」
それだけ言うと、奴はベッドから身を起こすと大きく伸び上がる。
座ってるあたしを見下ろすと、奴が勢いよく近付く。
それから掠めるようにキスされた。
「な、な、なっ!」
いきなりのことにパニックで言葉にならない。
胸がバクバクうるさいくらいに鳴ってる。
「ドキドキした?」
「何考えてんのよ!」
勢いのままに怒鳴りつけたけど、奴は口の端を上げた。
意地の悪い少し大人びた顔にドキドキはもっと早くなる。
「俺のこと好きになれ」
「ならないわよ!」
怒鳴りつけて立ち上がると勢いよく奴の部屋を飛び出した。
何なのよ、何なのよ!
慌てて階段を降りた所で立ち止まる。
物凄くドキドキしてる。
初めてのキスだったのに嫌じゃなかった。
好き……って何?
どうしよう、どうしよう。
真剣ないつもと違う大人びた顔を思い出して、頭に血が上る。
そんな形も恋の始まり――――。