Chapter.I:思いつきが全ての始まり Act.01

苦労の末に前期試験を終えた時、皐月はぐったりした気分で友人である健吾と大学構内にある食堂で顔をつきあわせていた。

「腹減ってすげー死にそう」
「それは私も一緒。やっぱりここはじゃんけんでしょ」
「……俺、お前にジャンケンで勝ったことないんだけど」
「じゃあ、アミダくじでもする?」

そんな下らない会話を交わしているところに、既にトレーを手にした佐緒里が席についた。

「いい若者がみっともないわね」

そうボヤきながら佐緒里が持ってきたのは、今日の定食でその香りにお腹の虫が途端に騒ぎ出した。恐らく既にテーブルについている皐月と健吾を見て、佐緒里は最初から長蛇となっている列に並んだらしい。そういう意味では佐緒里は要領がいい。そして、今日も綺麗に化粧した顔で疲れなど見せず、定食であるチキンソテーを細い指で持ったフォークで口に運んでいる。

「……仕方ない、もう行こう」
「……そうだな」

渋々と健吾と共に立ち上がると、佐緒里はすぐさまむくれた顔をこちらに向けてきた。

「ちょっと、せめてどっちか残ればいいじゃない。私が暇でしょ」
「気持ちは分かるけど、もう死闘を繰り広げるだけの気力もなし」

皐月が理由を口にすれば、渋々ながらも佐緒里はそれを認め、持っていた鞄を皐月が座っていた椅子に置き、今日提出した課題を入れてきた筒型のチューブケースを健吾が座っていた椅子に置いた。いつものように席を取っておいてくれる佐緒里に感謝しながらも、食券機の前に立ち少し悩んだ末にきつねうどんのボタンを押した。お腹は確かに空いているけど、昨日から何も食べていないこともあって胃がキリキリと痛む。

「うどんかよ」
「昨日、ちょっと無茶したから」
「お前、もう少し手抜きしないと四年間持たないぞ」
「健吾が言いたいことも分かるんだけどさぁ、手抜きってどこで手を抜けばいいのか全く分からないし」
「変に生真面目だもんなぁ、皐月の場合」

昔から言われてきたことだから自覚もある。けれども、実際、手抜きしろと言われても皐月としては本気でどこに手を抜けばいいのか分からないのだからどうしようもない。ただ、そのお陰もあって講師陣からの受けはいい。

基本的に人見知りの激しい皐月は、他人との交流範囲がかなり狭い。でも、皐月にとって、それは全く構わなかったし、面倒がないとすら思っていた。

健吾と共にテーブルに戻れば、佐緒里の横に見覚えのある男子が三人ほどいた。誰もが佐緒里目当てなのは一目瞭然で、そんな三人に佐緒里は艶やかな笑顔を浮かべている。思わず足を止めたところで、健吾が訝しげな視線を投げてきた。

「どうした」
「私ここで食べる。健吾は友達もいるし、あっちで食べなよ」

それだけ伝えて壁際のカウンターに腰掛けようとすれば、トレーを持った腕を健吾に掴まれて慌てた。

「ちょっと、零れる」
「いいから行くぞ」
「だから健吾は行けばいいでしょ」
「皐月は少しその人見知りと、愛想のなさを治した方がいい」
「ご飯は美味しく食べたいタチなんだけど」
「そりゃあ運が悪かったな」

健吾の大きな手はトレーを片手に持ち、反対の手は皐月の腕を掴む。痛いというほどでは無いけど、それなりに力は籠もっていてトレーを持った手では振り払えない。強引に佐緒里の待つテーブルに到着すれば、すぐに男子の内の一人が健吾に絡み始める。佐緒里も健吾もそれぞれ話しをしていて、皐月としてはどうせこうなるなら最初から一人で食べれば良かった、そう思いながらうどんをすする。

確かに皐月は健吾が言うように愛想はない。というか、余り話しが上手くない。これが健吾や佐緒里相手であれば言いたいことも言えるが、他人になると全く駄目だ。

元々、佐緒里や健吾とは美大の予備校で知り合った。最初に話し掛けてきたのは健吾だった。高校時代は野球をしていたという健吾は体格もよく、話し掛けられても皐月は何も返せなかった。そんな中で仲介するように話し掛けてきたのが佐緒里で、同じ大学を目指していることもあり、何となく話すことが多くなった。

大学に入ってから佐緒里は元々誰とでも話せることがあって、男女問わず多くの友人がいることを知っている。そして健吾も女友達は余り見掛けないものの、それでも同じ専攻の男友達がそれなりにいるらしい。

皐月は子どもの頃から一人でいることが好きだった。一人で絵を描き、一人で本を読み、一人でテレビを見る、そういうことが好きで、他人が関わることを好まなかった。いや、誰がいなくても馬鹿かわいがりする年の離れた兄の影響もあったのかもしれない。いつでも猫かわいがりする兄が嫌いではないが、うざったかった。だから余計に一人でいることを好む結果になったのかもしれない。

ただ、うざったい兄ではあるが感謝もしてる。こうして皐月が大学に行けるのは兄が働いているからであって、無制限に甘やかしてくれる兄がいるからこそ生活が成り立っている。ただ、それに甘えるばかりではいけないと思うものの、皐月はどうやって兄に恩を返せばいいのか分からない。

両親は皐月が高校入学直後に事故に巻き込まれて死んでしまって、今皐月の保護者は血の繋がった兄一人だ。卒業後に働くと言った皐月を説得してきたのは兄だった。三者面談には必ず出席し、皐月がやりたいと思っていた道を切り開いてくれたのは間違いなく兄だ。兄の負担を少しでも軽くしようとバイトをしたけれども、兄は喜ぶどころかそれくらいなら予備校に通えと言って皐月に美術系予備校のパンフレットを突きだしてきた。

兄相手であれば言いたいことも言えるし、遠慮もない。だからこそ、そんなお金の掛かるところは行かないと言ったのに、兄は既に申し込みまでしてきた後だった。何でも、勧めてくれた友人がいるということで、ここなら美術系大学へ行くなら確実だと言われたらしい。因みにその友人に口利きして貰ったらしく、結局、兄に言われるまま予備校に通うことになった。

そして晴れて大学に合格して半年経つにも関わらず、皐月には大学に入ってからの友人が全くできなかった。実際、できなくても困っていないから必要ない、という気持ちが無い訳でもない。

早々にうどんを食べ終えた皐月は椅子から立ち上がると、慌てた様子で佐緒里が声を掛けてきた。

「皐月、そういえばこれ!」

鞄から佐緒里が取り出したのは派手な花柄の入ったビニールコーティングされた一枚の布だった。赤や黄色のバラが花咲く布地は佐緒里が好きそうな柄でもあった。

「これで化粧ポーチお願いしたいの」
「化粧ポーチ?」

思わず問い返してしまったのは、化粧ポーチなるものを皐月が持っていないせいもあった。大学生になり化粧をしていない女子は少ない。けれども、化粧というものはお金が掛かることもあり、皐月は化粧水と乳液程度しか持っていない。化粧水を持ち歩くことも無いので、とっさに化粧ポーチの形が思い浮かばない。

「できたら小物が入れられて、筆とかも入るタイプのものがいいの。お願いできない?」
「イラスト描いてよ。それだけだと分からないから」
「オッケー」

すぐに鞄から小さなクロッキー帳を取り出した佐緒里は、鉛筆で器用に表から見た形、そして広げた形などを描き上げると、一枚破り皐月へと差し出してくる。素直にそれを受け取った皐月は丁寧に折り畳むと鞄の中へとしまった。そこまで聞いてしまえば、皐月としてはもうここに用事はない。

「自宅に送る?」
「いいよ、どうせ休み中にまた美術館巡りするでしょ。その時に渡してくれたらいいから」
「分かった。それじゃあ」

言葉少なく挨拶したのは、佐緒里の周りにいる男子たちが会話待ちだったこともある。鞄を肩から掛けて改めてトレーを手にすると、隣に座っていた健吾も立ち上がった。

「俺も帰るわ」
「えー、これから飲み会に行くのに」
「別に俺がいなくても問題ねーだろ。頭数は揃えてやったんだから」
「……まぁ、それもそうね。ばいばい」

あっさり手を振る佐緒里に健吾は呆れた顔をしながらも、皐月と共に返却口へと歩き出す。皐月としては、そんな健吾の選択に少しだけ不安になった。

「いいの、佐緒里置いてきちゃって」
「別にいい。あいつなら、本命じゃなければ上手くあしらうだろ」

確かに同じ高校に行っていた健吾が言うなら大丈夫なのかもしれない。でも、本当に佐緒里一人置いてきてしまって良かったのか、気になって振り返ろうとしたところで隣にいる健吾が声を掛けてきた。

「それにしても……良かったのか? 気軽に引き受けて」

一瞬、健吾が何の話しをしているのか分からず内心首を傾げながらも返却口にトレーを戻す。そして、ようやく佐緒里に頼まれた化粧ポーチのことだと気づく。

「別にいつものことだから」
「でも、そういうのって面倒なんだろ。俺はやったことないから分からないけど」
「洋服作れとか言われたら困るけど、ポーチくらいならどうとでもなるから。それよりも、美術館巡り、夏休みも行く予定?」
「そりゃあ勿論。折角の休みだしさ。それに今回、代々木でタイポグラフィ展やってるからそれに行きたいんだよな」

正直、タイポグラフィは皐月にとって余り興味ある分野じゃない。ただ、就職先などのことを考えれば興味無いと切り捨てる訳にもいかない。いずれ就職するとしたら皐月は広告代理店への就職を望んでいたし、そうなればタイポグラフィは避けて通れるものでもない。

「一応、来週の月曜日を予定してるけどどうだ?」
「空いてるから大丈夫」
「んじゃ、そういうことで」

これからサークルのある健吾とは廊下で別れ、皐月は家に帰るために廊下を歩き出した。大学に入ってから健吾はテニスサークルに入ったらしく、時折、合宿などもにも参加してお土産を買ってきてくれたりする。サークルに野球もあったけど、野球はムキになりすぎて腕とか壊しかねないということで敬遠したと言っていた。

佐緒里は英会話サークルに入ったらしいけれども、話しを聞いていると合コンしかしていない気がする。実際、佐緒里もいい男が沢山いるから、という理由で入ったくらいだからあながち佐緒里の目的には反していないのかもしれない。

皐月も二人に誘われたものの、これ以上自分の時間を潰すことはしたくなくてサークルには入らなかった。実際、要領の余りよくない皐月はサークルに入る余裕もないし、勧誘に来られても人見知りが激しく徐々にその数は減っていった。

不意にポケットに入れてあった携帯が鳴り出し、取り出して確認してみれば兄からのメールで今晩、皐月が借りているマンションに来るとのことだった。その文面を確認した途端、皐月の歩くスピードは上がる。

正直、昨日までは課題をこなすことに精一杯だったこともあり、もはや人としての生活は捨てていた。元々汚部屋体質だったのに、さらに酷いことになっている。とにかく兄が来るまでに片付けておかなければならないことが沢山ある。時計を見れば午後一時。これからであれば、兄が来るまでに六時間くらいは片付けることができる。

急いで家に帰った皐月は、まず最初に山のように積み上がる洗濯物を洗濯機に入れるとスイッチを押した。それからゴミをまとめ、課題に使った水彩や、クロッキー帳などを全て片付けると、続いて部屋に積み上がる細々としたものを片付けていく。とは言っても、散らかしたい放題散らかした部屋は、簡単に片付くものでもない。

動いていれば暑くなり、着ていた男物のシャツを脱ぎ捨てるとソファの上に投げて窓を開けた。人がいなかった部屋は蒸し暑く、本来であればクーラーでもつけてしまいたい衝動に駆られたけれども、埃立つ部屋で窓を開けながらクーラーをつけるなんて勿体ないことはしたくない。額に汗しながら片付けていったけど、五時になっても全てを片付けるまでには至らず、皐月は諦めてシャワーを浴びた。シャワーを出ると、いつものように大きめのTシャツとレギンスを身につけて冷たい麦茶で喉を潤す。

一応、掃除機は掛けたものの、四角い部屋を丸く掃除した程度のもので、壁際を見ればまだ片付いていない荷物が山になっている。けれども、疲れもあって既に片付ける気力も尽きてしまい、窓を閉めるとクーラーをつけた。

ひんやりとした空気に目を細めていれば、玄関のチャイムが鳴る。手にしていたグラスをテーブルに置いて玄関の扉を開ければ、そこにはいつもと変わらず生真面目そうな顔をした兄がスーツ姿で立っていた。

「元気にしてたか?」

目が合った途端に優しく笑う兄は、遠慮なく部屋に入ってくる。大抵この兄は忙しい時は避けてこうして皐月の家に来ることが多い。既に実家のない皐月たち兄弟は、それぞれ一人暮らしをしている。ただ、そんな皐月を心配して兄は一週間に一度皐月の家に顔を出す。ただ、今週は前期試験があったために、兄に会うのは二週間ぶりだった。

でも、一人暮らしを始めた兄妹で、こんなに頻繁に会うことは普通であればありえない。正直、相当な妹馬鹿だと皐月ですら思ってしまう。

「とりあえず、少し掃除をしようか」

そう言ってスーツのジャケットを脱ぐのはいつものことで、ソファにジャケットと鞄、そしてテーブルに眼鏡を置いた兄はてきぱきと皐月が残した掃除を始めてしまう。

こうして兄は皐月の部屋に来て掃除をし、そして作り置きのきく食事を冷凍庫にしまい、それに満足して帰って行くのが恒例だった。甘えている身で言えることではないけれども、それでも兄は自分に甘すぎ、ベタ甘だと思う。正直、今までにも何度か兄には、そこまでしなくていい、自分でやる、と伝えてきたけれども、全く聞いてくれる様子はない。

既に三十手前になる兄は時折恋人の影をちらつかせるけど、気づけばその影が無くなっていることが多い。恐らく、それはこうして皐月のところへ頻繁に顔を出していることもあるのだと思う。何よりも、外でも妹馬鹿を発揮しているらしいから、どうやっても女性が敬遠することは目に見えていた。

「春兄ぃ、そんなことしなくていいよ。自分でやるから」
「何言ってるんだ。俺がやりたいからやってるだけだから皐月はそこに座ってなさい」

そう言われて素直に座っていられる訳もなく、何だかんだと皐月も片付けを手伝うことになる。自分の部屋を片付けるのは当たり前のことだけど、昨日徹夜だった身体には正直きつい。でも、徹夜したなんて言えば、また兄が心配することが目に見えているので皐月としては黙々と片付けるしかなくなる。

ただ、兄がこうして来てくれることに感謝している部分もある。汚部屋体質ということもあり、兄が来なければ皐月の部屋はテレビで見るような汚部屋のようになるのは目に見えていた。兄が来る前に多少は片付けておく、それは皐月の中で自然とできた決めごとでもあった。余り片付け上手では無いものの、それでも、心配する兄を安心させたい、という気持ちは働いているらしい。

「夏休みはどうする予定なんだ?」

片付ける手を休めることなく問い掛けてきた兄に、皐月は肩を竦めるしかない。別にこれといって大きなことをやるつもりはない。それこそ、いつもの休日と変わらず、佐緒里や健吾と共に美術館巡りをする程度しかしないに違いない。

「別に何もない」
「でも、佐緒里ちゃんや健吾くんと出掛けるんだろ?」
「まぁ、それくらいは」
「いつになったら二人とは会わせてくれるのかな?」

正直、病気だと思う。何がどうあって大学生になる妹の友人に会いたがるのか皐月には全くもって理解できない。まさにシスコン、兄はそれに尽きると思う。

「そもそも、なんで春兄ぃに二人を会わせないといけないのよ」
「やっぱり兄としては色々心配だし」
「別にただの友達。春兄ぃが心配するようなことは何もないから」
「でもなぁ」
「今時、親だって大学生になった子どもの友達紹介しろなんて言わない! 春兄ぃ、もの凄く変だから、それ」

果たしてこの遣り取りは大学に入って、もう何度繰り返されたかよく分からない。確かに兄には感謝もしてるし、恩返しだってしたいと思う。でも、面倒くさいというのはこういう部分に尽きる。

「皐月ぃ……」

三十手前になる男が情けない顔で皐月を見るけど、皐月はあえて見ない振りを決め込んだ。普段は生真面目でどこか冷徹にすら見える兄だというのに、こうして皐月に見せる顔はとても情けないものばかりで、裏表が激しいと思う。けれども、皐月だってこうして兄に対しては気遣うこともなくポンポンと言葉が出てくる訳で、こんな姿を見たら佐緒里や健吾は酷く驚くに違いない。兄に対して遠慮がないと言えば聞こえはいいかもしれないけれども、結局は他人に対して内弁慶なだけで決していい性格ではない。

「もう片付けはいいからご飯食べよう。もう八時だよ。春兄ぃは明日だって仕事なんだから」
「……いつか紹介してくれよ」
「い、や!」

はっきりと言葉を区切りそれだけ言えば、テーブル挟んだ向かい側に座った兄はがっくりと肩を落とした。こうして、兄は皐月に友人を紹介しろと言うけれども、皐月自身、兄から友人を紹介されたことはない。確かに十以上離れた兄妹とあっては、友人を紹介しても仕方ないという部分もある。けれども、皐月ばかりが紹介しなければならない、という状況は酷く納得いかない。

兄が買ってきてくれたお寿司の包みを剥がしながらも、正面に座り相変わらずしょんぼりしている兄に向かって声を掛けた。

「人に紹介しろって言う前に、自分が友人紹介してよ」
「そんなことできる筈ないだろ! もし、俺の友達が皐月のこと気に入ったりしたらどうする! そんなのは絶対イヤだ」

……もう、本気で病気だと思う。シスコンもここまでくれば立派なのかもしれない。少なくとも、佐緒里くらい美人であればそう言われても分かるけど、少なくとも皐月は化粧だってしたことないくらい女らしさはない。加えて言えば、健吾にも男友達と同等の扱いをされている気がしないでもないし、健吾の友達にも似たような扱いをされている気がする。

化粧気はない、しゃれ気もない、スカート穿かない、これだけコンボがくれば誰が女として見てくれているのか分かったものじゃない。いや、目の前にいるこの兄だけが皐月を女として見ている唯一の人かもしれない。教授連中ですら、皐月を女性扱いしないものだから、やたら重い荷物を持たせて「あぁ、すまない、女性だったな」などとかなり失礼なことを言ったりする。

それなら女性として見られたいのかと言えば、皐月としてはノーとしか答えようがない。肩より少し延びた黒い髪は伸びすぎたら自分で適当に切るし、カーゴパンツやTシャツ、そしてその上に着る男物のシャツは、皐月にとっていつもの格好でしかない。スカートなんて高校の時に着ていた学生服以外、手元に一つだってない。

「春兄ぃの目、絶対腐ってると思う」
「遣り手と言われる俺にそんなことを言うのは皐月ぐらいだよ」

力なく言う兄は皐月が知っている兄であり、そんな兄に呆れながらも「いただきます」と声を掛けてからお気に入りのいくらを口の中に放り込んだ。

 
 

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