Act.07:十一月の十日余りの月

昨晩は結局、久住に家まで送ってもらい眠りについた。久住も働き過ぎだから身体を休めた方がいいと勧めたけれども、気になることがあるから社に戻ると言っていた。
今日は社に出て欲しいとは言われなかったので、午前中は仕事をこなし、午後からはどうするか考えていたところで家のチャイムが鳴り玄関の扉を開けた。
いつもであればネクタイもきっちり締めている久住が、珍しくネクタイを緩め、ジャケットの前ボタンを外した状態で立っていた。目の下にはうっすらとクマができていて、少しばかり顔色も悪いように見える。
「入れてくれ」
疲れているのは見た目だけではなく、その声すらもここ最近では聞いたことないくらい疲れ混じりのもので、すぐに宏哉は扉を大きく開けて久住を部屋の中へと招き入れた。
「昼ご飯食べるところだったけど、一緒に食べる?」
「あるなら」
「作るから少し待ってて」
久住にそれだけ伝えると、キッチンに入り冷凍してあったご飯を解凍して野菜類を刻んでいく。元々、久住が来なければキムチ炒飯にするつもりだったけれども、疲れた顔を見せる久住にキムチの刺激は強すぎる気がして、あんかけ炒飯を作り上げると、インスタントの玉子スープをつけてリビングのテーブルの上に置いた。
ソファに座り込んだ久住は疲れ切っているらしく、背もたれに身体を預けた状態で目を閉じていた。眠っているのかと思ったけれども、スプーンをテーブルに置く音で目を開けると、トレーに乗せた皿を並べてくれる。宏哉の近くにあるクッションを渡せば、久住も床に座り込み二人してスプーンを手にした。
「昨日、家に戻ってないのか?」
「色々調べごとしていて……」
歯切れの悪い久住というのは本当に珍しいことで、思わず口に運びかけたスプーンすら止まる。思わず久住を注視してしまえば、久住は笑おうとして失敗すると、そのまま顔を歪めた。
「……柿沼との繋がり、誰だか分かった」
「誰だった?」
思わず身を乗り出したけれども、久住の口から答えはない。お互いの間に沈黙が落ち、時計の進む針の音だけがやけに耳につく。どこか緊張感を伴った空気を壊したのは、久住の小さな溜息だった。
「……縦井だ」
「縦井さん? 一体、どんな繋がりで」
「縦井と柿沼は同じ大学だったんだ。昨日、俺とヒロの二人でホテルに行くといった時から、縦井の様子がおかしくて気になっていた。加納さんから柿沼の詳しい話しを聞いた時、大学名が引っ掛かって昨日は社に戻って全社員のファイルを開いた。そしたら縦井と同じ大学だった」
久住とヒロが会社を立ち上げる際に、信頼できる伝手を辿って紹介されたのが縦井だった。実際、会社を立ち上げるまで縦井は尽力してくれたし、縦井の言葉があったからこそ上手くいった部分も多い。今現在も、縦井は充分なほど久住や宏哉に力を貸してくれている。それこそ、久住と宏哉、そして縦井の三人でサークルファイブという会社を立ち上げたといっても過言ではない。その縦井が柿沼と連絡を取り、志穂の企画を盗んだというのだろうか。
「本当にそうなのか? にわかに信じがたい話しなんだけど」
「今日、朝一に興信所に調べて貰ったら、先ほど連絡があった。書類の受け渡しは今晩の予定だが、繋がりがあるのはほぼ間違いない。同大学で同サークルに所属していて、柿沼とは同期だ。これで知らないということはありえないだろう」
確かにそこまで範囲が狭まれば繋がりがないとは言えない。しかも、縦井は一度調べて貰った経緯もあるし、縦井の性格であれば自分のことも包み隠さず報告するに違いない。それなのに報告しなかった、ということは何らかの繋がりはあると考えるべきなのかもしれない。
「明日、縦井と話そうと思ってる。ヒロも付き合って貰えないか」
「それは構わないけど、大丈夫か?」
つい聞いてしまいたくなるのは、それだけ久住と縦井の繋がりが深かったことにもある。お互いに信頼しあっている関係だっただけに、この状況は久住にとってかなり辛いに違いない。
「割り切るしかないだろうな」
「けど……」
続く言葉を結局言うこともできず、宏哉はごまかすように立ち上がると冷蔵庫から作り置きの麦茶を取り出し用意した二つのグラスに注ぐ。酷く喉が渇いていて、どうしても飲み物を欲していた。リビングに戻り、久住の前にグラスを置けば、久住はすぐさまそれを一気に飲み干すと大きく溜息をついた。
「柿沼に脅されたのか、金で買われたのか、それは分からない。ただ、理由は知りたい」
「そうだな」
久住の言う通り、本気で理由が知りたかった。縦井は久住に心酔しているのだとばかり思っていたから、こんな裏切りのような真似を安易にするとは思えない。何かしらの理由があるとは思うけれども、あの縦井が、という気持ちがどうしても浮かんでしまう。
お互いに沈黙のまま昼食を終えると、久住は珍しく言葉少なく会社へと戻っていった。サークルファイブは三人で始まった会社で、中心として動く久住と縦井の関係はそれなりに濃かった筈だ。だから、久住の落胆も大きいに違いない。ただ、こういう時に久住は慰めの言葉を必要としないタイプだと知っているから宏哉も多くのことは言わない。
全てが明日だと思うと、皿を片付けた宏哉は明日の分も仕事を片付けてしまうために、仕事部屋にこもり二日分の仕事を片付けた。
そして翌日、朝から久住は家まで迎えにきてくれた。鞄から無造作に茶封筒を取り出すと宏哉へと差し出してくる。お互いに会話は無いが、それが何であるのかは宏哉も説明されずとも分かった。受け取った途端、久住は車を走らせて助手席で宏哉は茶封筒から取り出した書類に目を通していく。
興信所は随分と手際良く調べてくれたらしく、書類の中には写真も添付されていた。それはまだ縦井が学生時代の写真らしく、誰かと肩を組んで笑顔を浮かべている。書類を読んでいれば、その相手が柿沼ということはすぐに分かった。
残念ながら柿沼の顔は宏哉にとって余り覚えが無い。ただ、ぼんやりと思い出せる程度なのは、数度雑誌のインタビューに答えていた記憶があるからだ。それでも、ビジュアル面では志穂の方が受けるからなのか、志穂に比べたら柿沼のインタビューに写真が載ることは少なかった。
「繋がりがあることは分かった。ただ、それだけでは現在の繋がりを証明できない。何かを言うにしても証拠がないと動けない」
「それで、どうするつもり?」
「昨日色々と考えたんだが、この情報をそのまま加納さんに渡して柿沼に接触して貰おうかと考えている。今、加納さんは柿沼と同じプロジェクトにいるらしく接触も簡単にできるらしいからな」
「それが正解かもしれない。正直、あの縦井さんが簡単に尻尾を捕まえさせてくれるとは思えない」
今まで宏哉が見ていた縦井というのは、生真面目で失敗をしない。計算高く緻密な印象があって、どうにもこちらが仕掛けるには分が悪く思えてしまう。宏哉たちよりも年上ということもあるのかもしれないけれども、それでも、縦井ができるタイプの人間であるのは間違いない。
「今日の昼に会えないか、加納さんに連絡を入れてみてくれ」
「分かった」
言われるままに携帯を取り出すと、先日登録したばかりの加納の番号を電話帳から探し出すと通話ボタンを押した。数コール鳴らしても電話に出ないこともあり、朝の忙しい時間なのかもしれないと電話を切ろうとしたところで加納との電話は繋がった。
「サイドビジュアルの久保寺です」
「すみませんお待たせしました、加納です。ちょっと人気のない場所に移動していたもので」
確かに人目のあるところで迂闊な話しなどできる筈もない。既に加納は出社しているらしく手短にないようを伝える。
「今日の昼、どこかで落ち合えませんか?」
「昼、ですか? 午前中に会議があるので、それが終わる時間によって昼の時間が変わりそうなんですが」
「それでしたら、貴社の近くにいますので連絡貰えませんか」
「分かりました。会議が終わり次第連絡を入れます」
「お願いします。詳しいことは会った時に話しますので、これで失礼します」
加納も余り電話で詳しく聞くつもりはないのか、電話は随分と慌てた様子で切れてしまう。もしかしたら、すぐ近くに誰かが来たのかもしれない。
「どうだった?」
「会議が入っているらしくて、それが終わり次第連絡来ることになってる」
「あの近辺に個室があるような場所を……」
久住が呑み込んだ言葉を理解するのはたやすかった。いつもであれば、縦井に調べて貰うところだけど、今回ばかりはそうもいかない。それだけ久住の中に縦井に対する信頼感が見えて切ない気持ちになる。
確かにサークルファイブは三人で始めたものではあったけれども、宏哉は名義貸しをしただけで業務内容に大きく関わっている訳ではない。ほぼ久住と縦井の二人で動き、これまでやってきた。だからこそ、久住の縦井に対する信頼感は絶大なものだ。何かあればすぐに縦井にお願いすることが常となっているだけに、この現状は相当きついに違いない。
けれども、久住は宏哉に弱音を吐くことはしない。久住が弱音を吐き出したいのであれば聞くけれども、宏哉から踏み込んで問いただすつもりは無い。久住であれば言いたければ言うだろうから、それまでは待つつもりでもあった。多分、久住自身もまだ踏ん切りがつかない部分もあるだろうし、腹立たしさもあるに違いない。長い付き合いということもあり、久住のそんな複雑な心境が宏哉には透けて見えていた。
だからこそ、宏哉は話題を変えるために今日の予定を久住へと確認する。
「今日は朝一からインタビューだっけ?」
「書類に目を通したのか?」
「ばっちりだよ。社の方に来るの」
「あぁ。一応俺も立ち会うから、変なこと言ったら後で殴るぞ」
「それは勘弁してよ。ほら、やっぱり社長に手を上げるのは無しの方向で」
「言ってろ」
お互いの立場が分かっているからこその軽口で、今の宏哉にはこんなことしかできない。こんな軽口で久住の気持ちが軽くなるとは思わないけれども、一瞬でも縦井のことを忘れられるなら今はそれでいいと思える。きちんと考えないといけない時は確かに近づいている。けれども、証拠も無い現状で色々考えても仕方ない。とにかく証拠が無ければ、宏哉も恐らく久住も次に進めない心境だった。
久住と軽口を叩きながら会社へと到着し、久住と共に社長室へと足を踏み入れると、いつもと変わらない縦井がそこに居る。挨拶を交わせば、すぐに書類を手にしたままの縦井は声を掛けてきた。
「あと三十分程で出版社の方がお見えになります」
「分かりました。久住、出版社が来たら声を掛けるよ」
「頼んだ」
それだけ言うと、続き扉から久住は副社長室へと消えて行った。今は少しでも久住は縦井との接触を断ちたいに違いない。だからこそ、宏哉はすぐに縦井に声を掛けた。
「すみませんが、今回の新作ゲームの資料をお借りできますか。それから檜垣について余り触れられたくないから、キャラクターの担当をして頂いた竹ノ内先生の資料も用意して頂けますか」
「分かりました。すぐにご用意致します」
一礼すると縦井は一度部屋を出て行き、誰もいなくなった部屋で宏哉は小さく溜息をついた。元々、宏哉自身は余り嘘が得意でないこともあり、現時点で縦井と行動を共にすることに不安もある。けれども、久住が縦井と一緒にいるよりも、宏哉が縦井が一緒にいた方が久住の受けるダメージは少ない。宏哉にショックが無いと言えば嘘になるが、それでも久住の立場よりもかなりマシなものだろう。
しばらくすると縦井が戻ってきて書類を差し出してくる。それを受け取り、縦井に幾つか質問をしている間に受付から出版社が見えたという連絡があり、極秘にあたる書類は一旦縦井に預かって貰うと、久住に声を掛けてから宏哉は笑顔で出版社の人間を出迎えた。
取材を受けて数枚の写真を撮り終える頃には昼近くになっていた。昼は久住に相談したいことがあるから二人で食事を取りたいと縦井に伝えれば、縦井はビル内で食事を取るので何かあれば連絡を入れて欲しいと言われ宏哉はそれに頷きで答えた。久住と共に車に乗り込み、サイドビジュアルの近くまできたところでタイミングよく加納から電話が入る。
加納から説明されて言われた駐車場に車を停めると、歩いて通りに出たところで加納と合流する。そこから一分も歩かない店に加納が入っていき、続くように地下への階段を宏哉と久住も下りる。店員に促されるままに通された場所はきちんとした個室だった。地下にも関わらず窓の外には日差しが入り、窓の外には小さく庭が造られている。色鮮やかな花々は冬の空気を柔らかく見せていて自然と笑みが浮かんでしまう。
四人席で久住と宏哉が座ると、宏哉の正面に加納は腰を落ち着けた。メニューを広げられてランチメニューからそれぞれ選ぶと、つい店内を見回してしまう。そんな中で加納が笑う気配があり、そちらへと視線を向けた。
「実はここ、榛名が見つけた店なんですよ。先日、同僚たちと一緒に食事するために」
自然があり、そして空間があり、清潔な店内は志穂らしい選択にも思えた。けれども、いつまでも笑っていられる状況でもなく、久住に肘で小突かれて慌てて緩んだ顔を元に戻す。久住は鞄の中からファイルケースを取り出すとそれを加納へと差し出し、そのタイミングで宏哉は口を開いた。
「柿沼と繋がる人物が現れました。うちの社長秘書をしている縦井という者になります。そちらのファイルを見て頂ければ分かると思うのですが、柿沼氏と同大学卒業、同サークルで活動、尚かつ同期になります」
久住からファイルケースを受け取った加納は、すぐに十数枚に及ぶ書類を斜め読みしたのか一気に目を通すと改めて宏哉に視線を合わせてきた。
「ただ、一つ問題があって、今現在の繋がりが柿沼とあるのか分かりません。うちの縦井を揺さぶることも考えたのですが、余り表情に出るタイプでもないし、揺さぶりがきくタイプでも無いんです。それで、加納さんにお願いがあって来ました」
「分かった。俺がこの縦井の名前を出して柿沼を揺さぶればいいんだな。だが、連絡を取り合うか分からないぞ」
「それならそれでやり方を考えます。柿沼氏も縦井と同じようなタイプですか?」
「……いや、普段は堂々としてるが、裏に回れば肝の小さいヤツだな、あれは。今は上が柿沼についてるからでかい顔してるが、もし縦井の名前を出せば連絡の一つくらいは取るに違いない。ただ、何度も使える手では無いな」
「連絡を取り合えば何らしか掴むつもりですし、もし柿沼氏と会うようなことになれば証拠は必ず押さえます」
一応、どういう流れになるのかは、車内で久住と軽口を叩く合間に聞いている。久住は興信所で縦井についてしばらく調べて貰うように頼んだということだったから、余程ありえない方法でなければ確実に証拠となる写真くらいは撮れるに違いない。
「分かった。そういうことであれば、こちらも協力する。結果報告は貰えるものと思っていいのか?」
「勿論、結果が出たら報告はさせて頂きます。ただ、うちとしては縦井と今回の新作の企画をした人間との繋がりもあるので、大々的な問題にするには少し時間を頂ければ助かります」
「別にそれは構わない。俺としては柿沼を追い詰められたらどうでもいいからな」
話しがついたところで食事が運ばれてきて、宏哉が頼んだ和膳は色とりどりの食材が使われていて、どれも美味しいものだった。食べ終えて食後のコーヒーまで飲み終えると、加納とはバラバラに店を出た。先に店を出ることになった宏哉たちは、全ての会計を済ませてから店を出た。暖房のきいた店内から外に出れば、冷たい風が身に染みる。
「ヒロはこれからどうする」
「会社に戻るよ。やることがある訳じゃないけど、柿沼から連絡が入るのか気になるし」
「そうか」
どこか安堵めいた表情を浮かべる久住と共に車へと乗り込むと、再び社へ戻った。二人で出掛けることを縦井が疑う様子は無く、そのことに内心安堵しつつも、午後からも細々と縦井に書類を揃えて貰いながら資料に目を通すふりをする。実際、今必要な資料という訳では無かったけれども、縦井ができる限り久住の元へ行かないための苦肉の策でもあった。
夕方になり、いつもであれば残業につきあう縦井が四日後は用事ができたので定時に上がらせて欲しいと言い出した時には、普通を装うことは難しかった。それでも、どうにか表情を崩すことなく宏哉は了承の意を伝えれば、縦井は久住からも了承を貰ったらしく、結局、その日は夜まで縦井は付き合い、宏哉も久住に言われた手伝いをしてから、久住の車で家に帰ることになった。
「明日からは来なくていいからな」
久住の言葉に多く意味が含まれていて、それをしっかりと受け取った宏哉は短く「分かった」と返した。今日は縦井と共に作業することが多く、宏哉としても疲れてはいたけれども、どうやら久住は今日一日でどうにか自分を立て直したらしい。だからこそ、これ以上気を遣って社に顔を出す必要は無いということだと理解できた。
本来であれば、久住にも分からないように気遣えればいいけれども、付き合いが長くすぐに考えを読まれてしまうのはお互い様ということらしい。
「けれども、縦井が柿沼と接触するようだったら連絡が欲しい」
「分かった」
「それから、一人で踏み込んだりしないで興信所に任せなよ。きちんとした証拠を加納さんにも渡さないといけないんだから」
「分かってる。無理はしない」
もの凄く納得行かなさそうな顔をしつつも、きちんと返事をきけて宏哉としては安堵する。久住は嘘をつかない。少なくとも宏哉は久住に嘘をつかれたことは無いから、その言葉を信用できる。
明日から久住と縦井を二人きりにしてしまう心配はあるけれども、さすがにこれ以上うるさく言えば久住は機嫌を損ねるに違いない。だからこそ黙り込んでしまえば、久住はこちらを向くことなくぼそりと呟いた。
「ありがとな、助かった。お陰で立て直した」
それが縦井と離れていた時間に対しての礼だということはすぐに分かった。だから宏哉はできるだけ何でもないことのように久住の声に答える。
「どういたしまして」
それ以降、久住との会話はなく宏哉は家の前で別れた。見上げた空には膨らみかけた半月がいて、今日が月齢十一日、十日余りの月だと気づく。縦井のいった五日後には十五夜月。丸くなった月の日に、柿沼と縦井の繋がりが証明されるのかは分からない。全ては五日後に分かる。
月を見ると思い出すのは志穂のことで、先日志穂が見せた涙を思い出すと胸が痛む。決して泣かせたい訳ではないのに、上手く言葉を紡げない自分が腹立たしくもある。けれども、今は憤っている場合ではない。とにかくこれ以上志穂を泣かせないためにも、全てにおいて証拠を必要としていた。
自宅である建物の前で足を止めたまま、睨むようにして宏哉はもう一度月を見上げる。月は日々形を変えながら、広い空で静かに佇んでいた。

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