ヒロと別れを告げた夏は終わり、もうすぐ冬に差し掛かる。吹き付けてくる北風に首を竦めてマフラーに頼りながら駅までの道を歩く。あれから駅までの道のりを変えて公園の前を通ることは無くなった。かなり遠回りになるけれども、それでもまだあの道を通れないのはヒロを思い出してしまうからだ。
別にヒロと恋人同士だった訳でもないのに、こんなに長い期間引きずっている自分が可笑しくて仕方ない。別に惚れっぽいという訳でもないが、ヒロと別れて既に半年近くなる。ここまで恋人ができないまま宙ぶらりんの状態になるのは志穂にとっても初めてのことで、小さく溜息をつけば白い息が目の前に広がる。
あれから空を見上げることはやめた。できるだけヒロのことを思い出すようなものは目に入れたくなくて、足下を舞う落ち葉に視線を向けながら足早に歩く。電車に乗る時も、携帯で情報を集めるか、情報誌を読むかで、窓の外を眺めることもしなくなった。電車に乗る前に駅構内に入っている本屋でゲーム情報誌を手にすると、電車に乗り込み椅子に座るとぱらりと捲った。
正直、電車の中でゲーム情報誌を読むには微妙な年齢ではあるけれども、情報を得られる時間は今の志穂には限られていて、こういう時にでも目を通さないとどうしても時間が取れない。それに何かをしていれば窓の外を眺めるようなこともないし、ヒロを思い出すこともない。
プロジェクトもかなり進み、この調子であれば来月にはベータ版ができあがるところまできていた。ベータ版ができあがれば、今度はひたすらベータ版を遣り込むという仕事が待っている。何よりも、自分にとっても納得するものにしたいからこそ、志穂だってしっかりプレイする。
今月の新作ゲームなどを確認しながら、似たようなゲームがあれば携帯でチェックしていく。基本的に二番煎じになればゲームは余り売れなくなる。それでも売れるのは余程面白い機能があったり、シナリオが良かったりする場合のみだ。それでも、最初に出たものより売れることは少ない。何よりも同じ時期に開発を始めたとしてもユーザーがそんなこを知る筈も無いし、ユーザーにしてみれば後追いゲームというものは印象が余り良くない。
今月発売分に似たゲームがないことを確認すると、攻略方法の載ったページは飛ばしていく。そして続くページを開いた時、大きな見出しに入っていたのはサークルファイブの新作という記事だった。ゲーム画面などが掲載されていて、インタビューに答えているのはヒロだった。正直、久保寺という名字を見るだけでもいまだ心臓に悪い。
一層のことこのまま雑誌を閉じてしまいたい気分だったけれども、ライバル社のゲームともなればそれなりに気になる。けれども、文字を追う内に自分の顔が強張っていくのが分かった。開発画面からロールプレイングゲームだとばかり思っていたけれども、どうやら戦略シミュレーションらしく、開発画面にはファンシーな可愛らしい世界と、セピアで纏められた直線を基としたスタイリッシュな世界が載せられている。
強張っている顔を緩めることはできず、何度も何度も繰り返し文字を読む。ターゲット層も高校生以上とされている様子で、どこからどう見ても志穂の今いるプロジェクトのものと被る。ありえないと何度も否定するけれども、現実は手の中にあって我に返った時には終点に到着していた。
慌てて時計を確認すれば、既に予定していた時間から二十分近く過ぎていて、慌てて反対方向の電車へと乗り換える。しっかりしないと、そう思うのに足の震えが止まらない。まさかと思うのに、何度も読み返した文字を思い出してみるが、やはり今のプロジェクトとほぼ同じように思える。正確に言えば、異なる点も多いけれども、ただ、あれはまさに最初の企画段階、試作版よりも前段階の企画とほぼ同じものだった。
そして、うちのゲームの発売予定は夏商戦に合わせてだったが、サークルファイブの発売予定は春商戦に向けてのものだった。グラフィックは、今一番人気を誇るグラフィッククリエイターでもある飯田で、キャラクターデザインも人気漫画家を採用していて正直、現段階で勝負はついているように感じる。
どうにか電車を降りると走るようにして社に向かい、プロジェクトルームに入った時には暗く沈んだ空気がそこにあり、そこには全員が顔を出していた。
「榛名、これ見たか」
その中で誰もが挨拶を忘れるくらいに声を出せずにいれば、代表するように加納が机の上に雑誌を置いた。それは志穂が先ほどまで読んでいたもので、それを頷きで返した。
「やられたな……」
低い加納の声は悔しさが滲み出ていて、その表情は苦々しげなものだった。そんな中で志穂は自分のデスクにあるパソコンを立ち上げると、ネットワークケーブルを外してから、加納に言われて毎日持ち歩くようになったメモリを差し込む。記事を読んでいて気になったことが一点ある。
何十稿とある今回の企画書の中から、昔のファイルを幾つか開いて確認していく。まだ細かい仕様などについて雑誌には掲載されていなかったけれども、一つ雑誌に載っていて気になったのはゲーム内における戦闘システムだった。志穂は企画を立てる時に一度だけ戦闘システムに追加修正をしたことがある。けれども、難易度を考えてその部分は削ってしまい、ただ一度だけ企画書に書き加えた。あれを書いたのはいつだったのか、それを確認したかった。
そして見つけたファイルは六月頭で、奇しくもそれは社内でプロジェクトに関わるファイルが消える直前の日付だった。
「これは……」
パソコンを覗き込んでいた加納が言葉途中に止めたのは、志穂が見ていた企画書に書かれた戦闘システムに目がいったからに違いない。他の人間もパソコンを覗いていたけれども、声を掛けてくる人間はいない。
「作成日付は六月五日です。そして社内からデータが消えたのが九日。あの時点でもう……」
もしかしたら、という気持ちは志穂の中にもあった。けれども、まさかあの時点で既に自分の企画を盗まれているとは思ってもいなかった。全く同じ物を考える人間がいたとしても、あそこまで似通った物を考えるとはとても思えない。
近くにある内線電話を取れば、やはり情報は上にいったらしく上司から社長室への呼び出しだった。この時点で、志穂の中ではプロジェクトの終わりが見えていた。だからこそ、電話を切った後、それぞれと視線を合わせてからゆっくりと口を開いた。
「ごめん……」
謝罪すべきはここにいる人間だけではない。今回のプロジェクトに関わった全員に頭を下げるべきだと思う。志穂の不注意で他社に企画が流れた。そして、関わった全ての人間の仕事が無に返る。
「謝罪は後だ。とにかく話し聞いてこい」
まだ望みは捨てるなとばかりに強い視線で加納に言われ、志穂はどうにか笑顔を浮かべるとプロジェクトルームを出た。社長室に向かう足は重い。まるで足に鉛を詰められたような重さをひきずるようにしてエレベーターに乗り込むと、気持ちを浮上させられる猶予もないまま社長室の扉をノックした。
こうして気が重い状態で社長室の扉をノックしたのは数ヶ月前のことだ。でも、あの時には希望があったけれども、今の状況に希望を見いだすことが志穂にはできなかった。返事の後に扉を開ければ、正面にあるデスクに社長はいて、机を挟んで社長の前には上司と、何故か柿沼の姿がそこにあった。
けれども、柿沼は振り返って志穂を確認すると、そのまま社長と上司に一礼すると部屋を出て行く。すれ違いざまに「頑張れ」などと声を掛けてきたけれども、それに返すだけの気力も今は無い。まるで断罪されるような気分で上司の隣に立った。そして社長の机の上には、志穂も読んだ雑誌が一冊乗せられていた。
「今回のプロジェクトは中止だ」
前置きも何もなく、社長の口から出てきた言葉はその一言だけだった。いつもの志穂であれば、例え社長相手でも食って掛かったに違いない。けれども、今回ばかりはさすがに、やっぱり、という気持ちになってしまう。自分でもセキュリティーには気をつけていたけれども、既に後手に回ってしまった時点で何もかもが遅かったのかもしれない。
「すぐに新しい企画に取り掛かるんだ」
その意外とも言える言葉に俯きかけていた顔を上げる。正直、もうこのままプランナーとしては終わりになるのだとばかり思っていた。少なくとも、企画が流出したことで社長からの信頼はほぼ無くなったのだと思っていた。先日の遣り取りで信じて貰えたなどと甘いことは考えていない。そんな意外という気持ちが表情に表れていたに違いない。
「今、柿沼くんから君を辞めさせないで欲しいと乞われたからな。彼はうちで一番のプランナーだ。今、彼に辞められては困るからな」
その言葉を聞いて、潮が引くかのように急に気持ちが冷めていく。一層、この場で笑いたい気持ちを堪えながら「分かりました」と答えて一礼すると上司と共に社長室を出た。柿沼が志穂を辞めさせたくないのは当たり前だ。基本的に柿沼が売れたゲームの企画は全て志穂が考えたものだ。確かに柿沼からしたら志穂が辞めたら困るに違いない。
ただ、こうなると一体柿沼が何を考えているのだが全く読めない。恐らくデータを流したのは柿沼だろうことは分かるけれども、サークルファイブに流せば、あの記事と連動してどういう結果になるかなんてことは柿沼にも予想できたことだ。
「全く、君はつくづく問題を起こしてくれるな。すぐにプロジェクトを解散して、柿沼のプロジェクトに人間をまわせ」
果たして、この上司は一体、どこまで噛んでいるのか、志穂には分からない。ただ、志穂に対して良い感情が無いことはよく分かる。それでも、上司は上司だ。気持ちは割り切れなくても、従うしかない。だから返事をして立ち去ろうとした志穂の背中に上司の声が聞こえた。
「女の癖に恋愛なんかに現抜かすからこんなことになるんだ」
そこまで言われたらもう笑いすら出てこないし、振り返って文句を言う気にもなれない。どんだけ馬鹿な上司かと思っていたが、本気で馬鹿な上司だったらしいことに志穂は唇の端を上げた。
何だか、もう全てがどうでもいいような気がしてきた。ただ、ここまで一緒に頑張ってきてくれたプロジェクトのメンバーには本当に申し訳無い気持ちでいっぱいだった。元々、志穂の油断からこういう結果になったのだから、謝っても謝り足りない気がする。
エレベーターを待つのももどかしくて、一気に階段を駆け下りると志穂はセキュリティーを解除して扉を開けた。その場にはリーダー全員が残っていて、一斉に志穂へと視線を向ける。注目を浴びる中で、志穂は勢いよく頭を下げた。
「社長からプロジェクトを解散するように言われた。折角ここまで頑張って貰ったのに本当にごめんなさい」
「上に掛け合わないのか?」
どこか焦燥感を漂わせる加納に言われて、志穂は改めて机の上に置いたままになってる雑誌に視線を指さした。
「もし、このままプロジェクトを存続させたとして、このゲームに本当にうちは勝てると思います? しかも二番煎じなのに」
「……思わないな」
志穂よりもこの業界が長い加納に分からない筈もない。溜息混じりのその声に、志穂はもう一度頭を下げる。
「それで、今日はこれから柿沼のグループにいって欲しいんです」
「……おい、冗談だろ? 元々、今回の原因は柿沼だろ」
「でも、証拠がありません」
「志穂、何か変だよ。どうしたの? 何でそんなに落ち着いてるの?」
心配そうな顔で声を掛けてきたのどかに、頭を上げてから志穂は力なく笑う。口にするのはためらわれたけど、志穂は素直に心情を吐き出した。
「何だか疲れちゃった。私は今日、申し訳無いけど帰ることにする。明日は自分を立て直してから仕事に来ることにする。明日にでもプロジェクトに関わった全員にきちんと挨拶に行くから。ごめん、今日は帰る」
ショックが無いと言えば嘘になる。ただ、今はショックというよりも、何もかもがどうでもいいような気分で鞄を掴むと、そのままプロジェクトルームを後にした。そして志穂を止める人間もいなかった。
基本的にフルフレックス制の会社なので、まだ朝の日差しの中会社を出ても問題はない。ただ、それは建前の話しであって、本当にそれがいいことかというと社会人としては失格だと分かっている。でも、今はとても会社にいられる気分では無かった。それこそ、目に映る全ての備品を壊して歩きたい気分になりそうだし、実際、少し落ち着いたらそうする予感もあった。
悔しいと思うのに涙すら出てこないのは落ち込んでいるからなのか、本気で冷めてしまったからなのか自分でもよく分からない。落ち着けば怒りも再発するだろうけど、ただ今は新たな企画を考える気力も無くぼんやりと電車に乗った。自宅のある最寄り駅で降りることもなく、ただ、ぼんやりと電車に揺られる。
今回のプロジェクトが始まってから色々なことがあった。データは消えるし、雑誌に取り上げられるし、プロジェクトを中止させられたのはまさに初めてのことだった。そして、一番はヒロに出会ったことかもしれない。今となっては柿沼の動きからして企画を盗むこと自体にヒロが関わっているとは思っていない。けれども、柿沼から横流しされた企画はサークルファイブの企画として開発されている。だから、全くヒロが関係ないとは言えない状況でもあった。
本気でやっていて楽しい仕事だった。やり甲斐もあったし、何よりもプロジェクトメンバー一丸でゲームができあがったあの瞬間、そして店頭に並んだのを目にした時には感動があった。でも、もう何だかどうでもいい気がした。
もし志穂がプランナーという立場でなければ、ヒロと会っても誰に文句を言われることもない。でも、今更ヒロに泣きつくようなことができる筈もない。もう会わないと決めたのは自分だ。二人の立ち位置だけでなく、志穂にはヒロは勿体ない人のように思えるし、疑惑が少しでも残る以上、どうやってもヒロと再び会うことは無理だと思えた。
ぼんやりと電車に揺られるままに色々と考えていると、気づけば終点に到着していた。来たこともない駅で精算して改札を抜ければ、そこは自然に溢れていた。すっかり冬景色になり緑は余り無いけれども、少し先には山も見えるし、のんびりとした空気がそこにはあった。そして、周りにいる人たちはこれから登山にでも向かうのか、リュックを担いだ人が多い。
志穂はしばらく歩いて、途中こじんまりとした個人でやっている喫茶店に入る。マスター一人で切り盛りしているらしい喫茶店で、お昼ご飯にサンドウィッチとコーヒーを頼むと、窓の外を歩く人たちをぼんやりと眺める。山にこれから登るということもあり、誰もが生き生きとした顔をして、何かに挑むような興奮がその表情から見え隠れする。少し前の自分もああだったに違いないと思うと、志穂は小さく溜息をついた。
鞄の中に入ったままの携帯が何度が鳴っていたけど、それを取り出す気にはなれず、だからといって電源を切るだけの気力もなく、ただぼんやりと窓の外を眺める。
一層、山でも登ればすっきりと晴れ晴れした気分になるのかと思ったけれども、自分の服装を見て苦笑した。少なくともフリルシャツにカーディガン、AラインコートにAラインスカートとパンプスという出で立ちで山登りができるとはとても思えない。
出されたサンドウィッチとコーヒーを一時間ほど掛けてのんびり食べると、ぼんやりと通りを歩き始めた。この格好だと少し寒いこともあり、少し悩んだ志穂は手近にある衣料店に入るとコートを幾つか見ていく。
その中で志穂が手を止めたのは普段であれば絶対に手を取らないタイプのミリタリーコートで、それは最後に会った時にヒロが着ていた服を思い出させた。店員には可愛らしいタイプのコートを何枚か勧められたけど、志穂は結局そのままミリタリーコートを買うと、正札を切り取って貰いそのまま身につける。着ていたAラインコートは逆に紙袋の中へと詰め込まれた。
鏡を見ても、正直顔立ちの幼い志穂には余り似合わなかったけれども、でもどうしても今はそれが着たかった。だから、店員さんにはお礼と謝罪をして店を出ると、それは確かな暖かさを伝えてくれる。
別に何をするでもなく、ぼんやりと通りを歩き、時折土産物屋などを覗きながら目的もなく歩く。それが現実逃避じみた行動だということは頭の片隅では理解していたけど、今は何も考えずにただぼんやりと歩きたかった。いつもデスクワークということもあり、夕暮れ時まで歩いていれば足も十分なほど疲れたらしく、結局、志穂はそこにきてようやく家に帰るために電車に乗り込んだ。
携帯の充電は呼び出されることでバッテリー切れになったらしく、いつからか振動することはなくなった。暮れなずむ窓から見える景色をぼんやりと眺めている内に、志穂はいつの間にか眠りについていた。
ふと気づいた時には降りる一駅前で、いつの間にか混雑している電車の中で姿勢を正すと、いつもの駅で電車を降りた。久しぶりに見上げた空には見慣れた星はなく、あれから季節が変化していることが分かる。低い位置に右側だけ細く弧を描く三日月があり、もう数ヶ月通っていない道をのんびりと歩く。とにかく遠回りして帰る気力が無かっただけのことで、志穂は紙袋を片手に、肩から鞄を掛けた状態でのんびりと歩く。
だから、公園からその声が聞こえた時、足を止めたものの幻聴かと思った。けれども、すぐに声の持ち主は志穂の前に現れて、志穂の一メートル前に立つ。
「志穂さん」
もう会わない、そう決めたのは自分だしヒロとの関係はどうなるものでもない。そう思うのに、こんな時に会うのは反則だと思う。志穂はそのままヒロの横をすり抜けようとしたけれども、すぐにその腕を掴まれてヒロの方へと向かされる。
「志穂さん、ごめん。騙すつもりなんて無かったんだ。ただ……」
「ごめん、でも、どう言われても無理だから」
口から出てきた声は自分が思っていたよりも冷たい響きがあった。それは声に抑揚が無かったせいかもしれない。ヒロはやっぱり泣きそうな顔をしていて、自分よりもずっと背が高いのにも関わらず、その頭を撫でてあげたい気分にさせられる。こういう顔も本当に反則だと思う。
「志穂さんのことが好きなんです」
別に大きな声だったとか、必死な声では無かった。ただ、落ち着いたいつもと変わらないヒロの声で、視線の先にいるヒロは泣きそうな顔で笑っていた。それを目にした途端、胸が押し潰されそうなくらい苦しくなる。その言葉を色々な人から聞いたにも関わらず、こんなに泣きたくなったのは志穂にとって初めてのことだった。
ヒロのことが好きだけど、ライバル会社である志穂の企画を奪われた相手だと思うと、どうしても気持ちを口にすることはできない。ただ苦しくて、志穂はヒロの腕を振り払うとそのまま振り返ることなく走り出した。追いかけてきて欲しいという気持ちと、追いかけてきて欲しくないという気持ちが入り交じり、自分でも何を考えているのだか分からない。
背後から名前を呼ぶ必死な声が聞こえたけど、志穂は足を止めることなく家までの距離をただひたすら走った。だから、暗がりに止まる車の中に人がいることなんて気づけなかった。
狭い通りにヘッドライトが点けられると同時に、志穂は何気なく振り返る。その車がもの凄い勢いで自分に近づいてきた時、恐怖の中で思い出したのはヒロの顔だった。