図書館のカウンター横にある6人掛けの机が私の指定席。
元々本が大好きで放課後の図書室に通うようになった。
でも、最近はちょっとだけ邪まな思いで図書室にいる。
図書委員の人が彼の借りる本のタイトルを読み上げる。彼が借りるのは大抵推理小説。
元々私は余り好きじゃないジャンルだけど、本のタイトルはきっちりチェック。
今日借りた本は3冊。
だとしたら、来週の期限ギリギリまで返しにこない。
先輩だから接触できる機会や勇気なんてこれっぽっちもない。
せめて部活でも入っていれば良かったけど、帰宅部の自分が今更入れる筈もない。
自分の今持っている本は彼が先週借りた推理小説。
文字も多いし、読むと疲れる。
でも、最近、どう読んだら面白いのか分かってきて読むのは苦痛じゃなくなってきた。
自分でもストーカーみたいだと思うけど、でも、彼のことが知りたい。
だから、これくらいのことは許して欲しい。
ささやかな幸せにひたっていると、本を借りた彼がこっちを向いた。
でも、彼の後追いをしている後ろめたさもあって視線を合わせられない。
ひたすら本に視線を落とすけど、文字を目で追ってるだけで、内容なんて全然入ってこない。
「なぁ」
彼の声を聞いて身体がビクッてなった。
バレちゃったかな……後追いしてること……。
一気に下降する気分と共に顔を上げれば、彼がすぐ横に立って自分を見ている。
どうしよう。
何を言えばいいだろう。
俯いてオロオロする自分を見ていた先輩は、小さく噴きだすと声を殺して笑い出す。
予想していなかった反応に顔を上げれば、先輩の手が伸びてきて頭をポンポンと軽く撫でた。
ギャーッッ!!
こういう時、どうしたらいいの!?
分からないからこそ固まっていれば、先輩は更に笑う。
「臼井皐月ちゃん、だよね」
接点なんて何もない。
なのに、何で先輩は私の名前を知っているんだろう。
1人パニックになっている中で、先輩が私の席の横に座った。
もう緊張で指先すら動かせない私の顔を先輩が覗き込んでくる。
「推理小説、好き?」
「は、はい。さ、最近読み出したんですけど、面白いと思います」
「じゃあ、今度貸してあげようか?」
問い掛けに弾けるように顔を上げれば、楽しそうに笑う先輩の顔がそこにあってまた俯く。
だって、こんな近くで先輩の笑顔が見れるなんて考えたことも無かった。
もう頭の中は「どうしよう」ばかりがグルグル回ってる。
「そ、そ、そんな」
「俺、沢山持ってるから好きなら貸してあげるって。それに色々話しも聞いてみたいし」
「は、話し、ですか?」
「何で俺の借りた本ばかり借りるのか、とか?」
少し悪戯めいた先輩の顔に、一気に顔が赤くなったのが自分でも分かった。
もう、今なら頭でやかんのお湯を沸かせるかもしれない。
「す、す、すいません。その、悪気はなくて」
「うん、分かってるつもり。だから、今度本貸してあげるよ。日曜日に」
日曜日――――?
日曜日に学校なんてない。
それはすなわち学校の無い日に合う訳で――――。
「あ、あの!」
「うん、図書室では静かにしようね」
そう言って唇に触れた先輩の指先は少し冷たい。
突然の接触に固まる私に先輩は更に笑顔を見せてくれた。